<ミステリー・1>

「ん‥‥?おーいリキエルー?
 この本、こないだ見た時からしおり進んでなくね?そんなつまんなかったのかァ?」
「あ、違う違う。それ今、ちょっと考え中で。謎解き前で止めてるんだ。」
「へぇ?何、リキエルってあれ、『読者への挑戦』とか書いてあると律儀に読むのやめて考えるタイプかァ?」
「はァァ〜〜?ドMかよテメェ。パニック持ちのくせに、瞼上がらなくなっても知らねーぞ。」
「お、大きなお世話だよッヴェルサス、自分にかかわるプレッシャーでなきゃそうそう落ちやしないっての。ましてフィクションで。」
「へッ、そもそもミステリーなんか読むやつの気が知れねぇな、俺は。あんなもんどれも全部同じ展開じゃねーか。
 探偵が出てきて事件が起きて、人が死んで探偵が全部謎解いて終わり。つまらねー上に腹立つんだよ。」
「あー‥‥まぁ全部がそうとは言えないけど、確かにパターン決まってるところがあるよな。お約束しかり、フラグしかり。」
「ヴェルサスとか、いかにも殺人事件起こった直後に『こんな所で人殺しと一緒になんかいられるか!俺は自分の部屋に戻る!』とか言い出しそうだよな!」
「殺すなッ!!」
「すげぇwwww定番の死亡フラグwwww」
「リキエルテメェも笑ってんじゃねぇッ!!
 大体、それ言ったらリキエルなんざ、外部と電話が通じないとか道が土砂崩れで脱出できないってわかった時点でパニック起こして、制止を振り切って屋敷飛び出した挙句に後から事故に見せかけた死体で発見されるパターンだろ。」
「うわああああッ目に浮かぶッ!!あッ、汗がッ!!」
「フィクションじゃパニくらねーんじゃなかったのかぁ〜?
 んー‥‥兄貴は大体名探偵ポジに収まりそうだけど、それじゃ面白くねーし‥‥あえて言うなら、探偵より先に重要な証拠見つけたり事件の真相に辿り着いて『なんてことだ‥‥早く皆にこのことを伝えなくては!』ってつぶやいた瞬間、背後に立つ黒い影に殺されるパターンな。」
「ありそうーーー!頭良すぎるやつって大体死ぬよな!!」
「だろォー?
 ‥‥こう考えてくと、案外この面子で生き残るのはオレじゃね?」(どやぁ)
「あぁ?何言ってんだよウンガロ、お前は真っ先に変死体で発見されて惨劇の幕開けさせる役だろ。でなきゃ俺が部屋に立てこもったりリキエルがトチ狂ったりできねぇだろ。」
「うわあああ納得!でもヒデェ!」



(読書週間なので。弟三人で語るミステリーあるあるネタ)









<ミステリー・2>

「つーか、オレら兄弟全員被害者かよー。誰だよ犯人。」
「案外、兄貴とか死んだふりで実は真犯人ってパターンじゃねぇか?腹黒だしよォォー。」
「兄貴犯人だとマジで探偵勝てない展開になりそうだけど、さっきの死に方から考えるとその可能性は低いだろうな。
 ‥‥こういう連続殺人を難なく行えるってことは、かなり計画的な犯行だ。外部犯の線は低いし、屋敷の面子でこんな事件を冷静に行えそうな人物‥‥順当に、テレンスかディエゴじゃないか?」
「テレンスはねぇな。むしろ犯人だと疑われた後、次の犠牲者になるタイプ。
 ディエゴは狡猾だし悪くねぇんだが、ちっと真面目すぎるとこがあるな。あれは逆に生き残り要因。つか、館の中で一番入ってきたのが遅くて、一番付き合い浅いやつが犯人ってのが意外性がねぇ。
 ミステリーってのはこう、『まさかこいつだけは違うと思ってたのに!』っていう意外性を、これでもか!とブッ混んでくるもんなんだよ。」
「‥‥なんかヴェルサス、ミステリー嫌いって言う割に、詳しいのな。読む気がしねーって、単に読み飽きただけ?」
「うーん‥‥こいつだけはない、ってやつ‥‥ケニーGとか盲点中の盲点じゃねぇ?」
「さすがにそれは、いわゆる『終了5分前に初めて出てきたモブが真犯人』的なものを感じるな‥‥。」
「もっとこう、地味系じゃなくてしっかり目立ってて見目がよくて、演技力とか猫かぶりがうまくて、そのくせ何があっても絶対俺らを殺しそうにな‥‥い、ような‥‥‥。」(徐々に小声)
「「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」」」(←全員気づいた)


(ガチャッ)「ドナテロ、ちょっとよいか‥‥おや?どうした、三人で神妙な顔をして‥‥。」

「‥‥‥ヤベェ、犯人は親父だ。」
「オレら、親父に全員殺される‥‥!」

「ッ!!?」



(間の悪いDIOさま)









<ジャック・オ・ランタン>

「‥‥?おい、ウンガロ。何でこんなにカボチャがあるんだ?旬ももう過ぎただろうに。」
「あ、ディエゴ。へへ、親父に買ってもらったんだ。今年は自分で彫ってみようと思ってさ。ジャック・オ・ランタン。」
「‥‥ジャック・オ・ランタン?カボチャでか?」
「‥‥?うん、そう。」
「‥‥‥‥‥?カブじゃなくてか?」
「‥‥え、カブ?」

(ガチャッ)「ウンガロー!見ろ、緑色のカボチャだぞ!
 和カボチャというそうだが、珍しいので買ってみた‥‥ん?なんだディエゴ、もう帰ってたのか。」
「あ、親父おかえり。あの、ディエゴがさ‥‥。」
「DIOか‥‥なぁ、ウンガロがジャック・オ・ランタンをカボチャで作るというんだが、カブじゃないのか?それとも最近はそんなにカブが手に入りにくいのか?」
「‥‥‥あー‥‥‥。
 ディエゴ、よく聞け。‥‥スコットランドでは現代もカブを用いているようだが、アメリカでは今ではカボチャを用いるのが一般的なのだ。」
「何だとォッ!?」
「えっ何、もとはカブなの!?」
「無理もない‥‥現代ではすっかりアメリカ式が世間に浸透しているようだからな。私も以前プッチとの話で知って驚いたものだ。」




「‥‥‥ってことがさっきあったんだけどさ。
 こういうのもジェネレーションギャップって呼んでいいと思うか?兄貴。」
「‥‥一応表現としては正しいんでしょうが‥‥。」



(リアルタイムで100年の世代差。世界は違えど、DIO様もディエゴも19世紀末頃のイギリスを生きてた方なんですよね)









<仮装>

「仮装‥‥だと?我々でか?」
『そうだ。今晩カーズの店、ハロウィンの仮装で行くと会計10%割引なんだとよ。グループ全員仮装姿ならさらにもう一割引き。』
「ほほう‥‥成程。ところでそれは、私の普段の格好でもリアル吸血鬼の仮装として認められるのだろうか。」
『駄目だろうな。
 で、だ。さっき店に予約の電話入れたときに、カーズの野郎に「今晩は混むだろうから予約は本来断るのだが、お前達は常連だから特別に空けておいてやろう。その代わり、全員仮装姿で来るがいい。万一半端な仮装やネタ被り、また仮装をしていない者がいた場合、強制的に全員柱の一族の装束に着替えさせる故、心しておくように」と言われてな。』
「おいッ!?ペナルティが重すぎやせんかそれは!!?一人アウトで全員強制フンドシだと!?」
『そういう訳だから悲劇を回避するためにこうやって面子全員に確認の電話してんだよ‥‥!
 吉良のとこは化粧とスーツでゾンビサラリーマン、プッチは武装してエクソシスト、ディアボロはたまたま家にあったねじれ角でリアル悪魔のコスプレをするそうだ。』
「たまたま家にねじれ角がある状況とは何だ‥‥?」
『知らん。で、俺はとりあえず滅多に着ねぇスーツとシャツ出して右手に数珠、左手に黒手袋はめて水晶玉持っていく予定だ。ちょうど時期だしな。』
「おいアリなのかそれは!?先日テレビで見かけたが、何かあれは物の怪を退治する側ではないのか!?」
『丁度いいだろ、もともと俺はテメェらを退治する側の一族だ。吉良にも「そんなゴツイ霊能教師がいてたまるか」と言われたが。
 つーことで、あとはテメェだDIO。今言ったものと被らねぇような仮装を、夜までに決めて用意しとけ、いいな。』
「待て待て待て!承太郎貴様ッ‥‥何故このDIOへの電話を一番最後にした!!
 急にそんなことを言われても、どうしろというのだ!しかもこんな時に限ってテレンスは不在だし‥‥(プツンッ)オイ待て切るな!おい!
 ええええいもう、どうしたら‥‥‥。‥‥ハッ!そ、そうだ!」




バタバタバタバタ‥‥ドバタムッ!!

「おいディエゴ!貴様ッ、今夜一晩ちょっと服と尻尾を貸せ!!」
「はァァァ!?
 ふ、服はまだしも尻尾は無理だ!!
 いや、服のほうも無理だ!サイズが違いすぎる!」
「貴様ッ!一度はこのDIOのスタンド借りていったことがあったろうが!あれができたのなら尻尾ぐらい何とでもなる!
 大丈夫だちゃんと返すから!壊れるまで返さんなどということはせんから!」
「何がだ!?とにかく断る!」



(無茶ぶり帝王。恐竜ジョッキーの仮装は果たしてカーズ様にハロウィンと認めてもらえるのか‥‥)









<肉まん>

「ピザまんだろ。」
「カレーまんだって。」
「王道は豚まん。」
「ベルギーチョコまんです。」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥


(ゴングを手に)「ファイ‥‥‥ッ!」

(ぬっ)「角煮チャーシューまん。」(←通りすがり)

「ッ‥‥!?
 ‥‥‥ッディエゴ様優勝ゥゥーーーッ!!」

カンカンカーーン!!

「「「「ええええェェェーーーーッ!?」」」」
「ひ、ひいきだ!贔屓だー!!」
「ヴァニラてめぇフザけんな!何の優先順位だッ!」
「親父に言いつけてやるゥゥーーーッ!」



(通りすがりに勝利をかっさらっていく系ジョッキー)









<図案・1>

「‥‥うううむ‥‥。今年はどうしたものか‥‥。
 ‥‥‥‥羊‥‥‥Sheep‥‥‥‥スリープ‥‥眠り‥‥‥‥ハッ!
 そうか、マニッシュか!!」

「親父‥‥いい加減毎年の年賀状に部下の写真使うのよそうぜ。
 しかも無理やりすぎるし。」

「ドナテロ‥‥駄目だろうか、やはり。
 だが、その次の猿と鳥の役は既に決定しているのだ。今更今年だけ除外するというのも‥‥。」
「フォーエバーとペットショップか‥‥。ハヤブサはともかく、オラウータンっていいのか?
 つーか、その次の戌年なんか余計どうするんだよ。アヌビス神は写真に写らねーぜ。」
「犬はどのみち好きではないから除外してもよいのだが‥‥それより今年の問題のほうが先だ。
 ええい、こんなことならばニュージーランドあたりで友人探しをするべきであった‥‥。」
「羊のスタンド使い探すなッ!」



(「ジョジョ 羊」で検索かけると主にトニオさんの料理が出てくるという罠)









<図案・2>

「駄目だ‥‥リキエル、あと任せた。」
「おう、頑張ってみる。
 父さん、別に毎年律儀に干支にしなくても、家族の写真とか普通に使われてるし、そっちでもいいと思うぜ。
 ‥‥まあ、何年か前はディエゴ単体も使ったけど、あれも干支モチーフだったし。」
「家族写真か‥‥。非常に心ひかれる言葉ではあるのだが‥‥。
 どうも年賀状で家族の写真というと、以前承太郎から送られてきた『明らかに単体で撮った写真二枚を無理やり合成してツーショットらしく加工したらしき写真』がついた年賀状を思い出してな‥‥。」
「なにその新年早々の悲しみテロ。」
「他にもあるぞ。吉良から送られた『母親が一人何も知らずに微笑む横で、息子と父(偽)がぎこちない笑顔を浮かべつつ互いの足を踏んで牽制し合う写真』のついた年賀状とか。」
「気まずいってレベルじゃない!!」
「あと、虹村からのは父子三人の写真と、おそらく兄の方からと思われる『今年も父はお前のせいでこんな状態→ですが、よろしくお願いします』というメッセージ付きで。」
「恨み言!?もうそれ呪いの手紙の域じゃないかよ!」
「そういう訳で、家族写真を使うにしても、友人や一部の配下宛には別の図案を用意しておく必要があるだろうな。
 でなければ、わが家の幸福さ平穏さを妬む者から更なる恨みを買い、元旦早々背中を刺されるか、背後から紫外線照射器を撃たれる可能性がある。」
「‥‥父さんとりあえず、送られてきた年賀状一式全部出して。燃やすから。」
「ま、待てリキエル、落ち着け。せめて住所録を作ってから‥‥。」



(お焚き上げ推奨、不幸の年賀状)









<図案・3>

「ごめんウンガロ、俺も限界だ‥‥。バトンタッチ。」
「ほいほい。
 親父―、年賀状だけどさ。よかったらオレ、イラスト描こうか?」
「何?本当か、ウンガロ?」
「うん。絵だったら写真より波風立たないと思うし。
 ほら、こんなん。とりあえず羊関係で何枚か描いてみたから、好きなの使ってくれよ。」
「おお、もう描いてあるのか‥‥では、ありがたく使わせてもらうとしよう。感謝するぞ、ウンガロ。」

「かッ、解決したァァーーッ!」
「うおおおおッスゲェなウンガロ!!期待してなかったのにあっさりやりやがった!」
「ははは、テメェら後で覚えてろ。」
「いやー褒めてんだって。ともかくこれで『ミッション:年賀状のネタ化を防ぐべく親父を説得せよ』は完了だな。
 にしても、先に絵も用意してるとか、やるなー‥‥(ペラ)‥‥‥‥‥‥ん?」
「どうした?ヴェルサス。」

「‥‥‥おい、ウンガロ。これ、もしかして全部童話モチーフだったりするか‥‥?」
「あー?うん、そうだぜ。その絵とかは見たまんま、7匹の‥‥。」
ヤギじゃねーかッ!!」
「‥‥‥あれェ?
 わ、わりわり、ちょっと間違えただけだって。ほら、こっちの大中小の三匹のはちゃんと‥‥。」
「がらがらどんだろそれ!?だからそれもヤギ!!」
「あっ‥‥あれェェー?
 えー、もういいじゃんヤギでも。どーせ『山羊』っていうぐらいだし、そんな差はないだろぉー?」


「山羊と羊は、生物学上の分類ではどちらも『ウシ科ヤギ亜科』に属しています。が、その後の属目が『ヤギ属』と『ヒツジ属』に分かれます。
 すなわち、近縁ではあるものの別の種類の動物だということです。交配もできません。
 食べるものや性格等も大きく異なり、羊は草だけを食べ、大人しく温厚、群れに従う特性があるのに対して、山羊は木の芽や木の葉も食べ、攻撃的で自立心の強い性格をしています。」


「兄貴ペディア来たーーッ!?」
「へ、部屋で自分とこの組織の住所録作ってたんじゃ!?」
「延々と騒がしいので様子を見に来たんです。あなた達、ツッコミの声が大きいんですよ。
 あと僕としては、むしろこちらの『広い草原にお腹の膨れたオオカミが一匹だけいる絵』のほうがよほどツッコミ待ちかと思うんですけど。」
「食っちまったよ干支‥‥!」
「ちゃんとヒツジの話だったのに‥‥。」
「なかなかブラックですよね。‥‥でもこれはこれで割と可愛いので、よければこちらの絵、僕がもらってもいいですか?組織構成員宛の年賀状図案に使いたいので。」
「あー、いいぜ。むしろ『喰らい尽くした』って感じは兄貴のほうが似合うしな。組織乗っ取り的な意味で。
 っつーことでごめん親父ー!親父の分ちゃんと後で描き直すからちょっと待っててなーー!」
「あーあー、父さんあっちで絵見ながら首かしげてるじゃないですか‥‥。あまり困らせちゃいけませんよ。配下へのハガキに一言書き入れたり、色々忙しい時期になるんですから。」
「ああ、呪いの年賀状も来るらしいしな。」
「そんなのもあるんですか?
 あ、そうだ。父さんからもしディアボロ宛に年賀状出すようなら、確認してほしいことがあるんだった。」
「ん?親子連名で出すかとか?」
「いえ‥‥実は先日トリッシュと『喪中』の定義について論じ合ったところで。
 で、新年喪に服されたいかどうか、ちょっと本人に聞いてみてもらおうかと。」
「‥‥兄貴が一番困らせること言ってる気がする‥‥。」



(生物学に特化したジョルペディア)









<ミステリー・3>

「閉鎖された古い館の中で、14の言葉になぞらえるように繰り返し起きる惨劇‥‥。」
「多すぎだろ惨劇。というか、カブトムシを模した殺人が四回も起きるのか?」

「食い違う目撃証言‥‥現場に現れた不審な影とは、果たして女か、小男か‥‥。」
「‥‥‥ヌケサクだろそれ。」

「殺人現場に落ちていたのは、凶器と思われるロードローラーだけ‥‥。」
「『落ちていた』じゃなく『駐車されていた』って言わないか?それは。」

「被害者の身体に共通する、ハート形の刻印が示すメッセージとは一体‥‥!」
「殺害方法が膝蹴りか頭突きだったってことだろうな。ていうか、犯人DIOだろ。」




「‥‥‥うーん、このキレっぷり。やっぱディエゴは探偵役いけんな。」
「流石はイギリス人、ホームズ発祥の国ー。じゃ、万一の時はオレらなるたけ色々手がかり残しながら死ぬから、ディエゴ頑張って真犯人見つけてな。」
「なんとか僕ら4人全滅しないうちに解決してもらえるとベネですね。」
「今なら探偵やると、もれなく究極生物が助手についてくるらしいぜ!」
「‥‥‥別に探偵ってのは、投げられたボケを逐一拾って突っ込んでやる役のことじゃないんだがな。」



(律儀探偵ディエゴ)









<お歳暮>

「ン〜、そうだなぁ‥‥ディアボロにはワイン、プッチにはフルーツ詰め合わせを‥‥少々旬は外してしまうが。
 承太郎にはやはりビールだろうな。そろそろ上陸の時期だろうし、少しひねってエジプトビールにするというのも面白いか‥‥。」

「‥‥‥?何してんだ親父、カタログなんか広げて。」
「おお、ドナテロにハルノ。
 いやなに、先日から各地の配下より荷物が届いているだろう。」
「ああ、お歳b‥‥‥ゴホン、ゴホホーン、オホホーン‥‥あれな、『貢物』な。」
「うむ、そうだ。
 あれは例年大量に送られてくるが、一方私から他へ物を贈ることがない、ということにふと気づいたわけだ。」
「ああ、確かに。通常こういうのは上司や日ごろお世話になった目上の人に感謝の気持ちとして贈るものですから、帝王‥‥組織のトップであり、取引先というのも特に存在しない父さんには贈る相手がいないわけですね。」
「うむ。で、少々つまらんと飲み会で愚痴をこぼしたところ、それなら今年は試しにこの面子で互いに物を送り合ってみようかという話になってな。」
「へぇー、飲み会仲間と?」
「別に奴らに世話になったという覚えもないが、まぁ知らぬ仲でもないしな。
 とはいえ、男相手に宝石や貴金属、美術品を贈ってもつまらんから、もっぱら酒や食い物になる予定だ。」
「ふーん。いいんじゃねぇの?元のお歳‥‥じゃねぇ、貢物とは大分違うんだろうけど、気楽な感じでよォォー。
 兄貴もギャング組織でトップだが、前ボスとかに何か送らなくていいのか?」
「あいにくと、特に彼にお世話になった覚えもないので‥‥。
 にしても、いささか時期が遅くはありませんか?年末の忙しい時期に重ならないように、12月初頭から20日頃まで、遅くとも25日までには届くようにするのがおせ‥‥最近の貢物のマナーだそうですよ。」
「ああ、それならば問題ない。何しろ、これほど近所に住んでいてわざわざ郵送するのも無駄だからな。休日に集まって、その場で渡し合う手はずになっている。」
「ああ、直接‥‥‥?確かに無駄はないですが、それはそれで形式としてアリなんでしょうか‥‥?」
「そういうわけだから、23日は留守にするぞ。カーズが日暮れ前から店を貸切にしてくれるそうなのだ。帰りは少し遅くなる。
 贈る品は当日まで秘密ということだったが、どうせワインやつまみが中心だろうから、おそらくそれを肴にそのまま宴会になると思われるのでな。ディアボロなど、それとは別にパネトーネを焼いて持ってくるとか言っていた。私も折角だから何か作っていくか‥‥だがカーズも腕によりをかけると張り切っていたし‥‥。
 そうそう、カーズへの品は食物ではなく装飾品にしようと考えていたんだった。忘れるところだった。配下から贈られた首飾りに少々手を加えて、奴の編み込んだ髪に飾れるよう細工をだな‥‥‥ドナテロ?ハルノ?なんだその顔は?」

「もうそれただのクリパじゃねーかッ!!」
「ただのどころか、『イヴ前の祝日に馴染みの店貸し切って手作り菓子だのアレンジアクセだのお酒だの持ち寄ってプレゼント交換』て、もはや女子会の域ですよ!?」



(それでいいのかラスボス勢(+主人公一名)。あと『最近の貢物のマナー』ってなんだ)









    


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 秋も深まり冬が近づく無駄家族。
 ‥‥何回目の秋&冬かは考えてはいけない。