5.儀式を開始します
□月▲日、雨。
エンヤ婆が死んだ、らしい。
なんでも、DIO様の敵とかいう一行に息子を殺され、その仇討ちに行ったらしい。そして、返り討ちにあった。
こちらの情報を漏らさぬように始末するべき、という部下の主張を聞き入れ、DIO様はそいつに肉の芽を持たせて現地へ向かわせた。
「エンヤに限って、私を裏切るということは考えられない。
だが、奴は既に憎しみで発狂寸前だった。例え生きていても最早以前のように仕えることはかなわないだろう、とダンに言われてな。
何より、あちらにはジョセフ・ジョースターがいる。エンヤに喋る気がなくとも、私に関する情報を読み取られることは避けられないだろう。」
仕方がなかった、と言いながらも、DIO様の表情は沈んでいた。
あのDIO様に限って配下の死を悲しむなんて、とも思ったが、その一方で俺は納得もしていた。なにしろ、エンヤ婆は俺や他の部下よりもずっと早くからDIO様に仕えていた。そしてDIO様もその忠誠に信頼を置き、部下の管理や他の仕事も色々と任せていた。
オカンみたいな口うるさいところも多かったが、やはり一番側にいた右腕だ。失ってしまった意味は大きいのだろう。
「……なんということだ……。」
重々しく、DIO様がつぶやく。ゆっくりをかぶりを振りながら、
「エンヤ婆がもういない、ということは…………次からはジョースターへの刺客の派遣は私がやらねばならない、ということではないか。なんと面倒な……。」
「そっちですか!?」
「今まで全て奴任せだったからなぁ……。えーと、スタンド使いの配下はあと何人残ってたっけ……。」
……ま、こういう人だってのもわかってたけどな。
うん。名誉ある前言撤回。
「ま、考えていても仕方がない。こうしている間にも、奴らは近づいてきているのだからな。
確かそろそろマニッシュのいる村の側まで来ているはずだから、ペットショップに伝令を持たせて飛ばすとするか……。ええと、他には………おい、隣の部屋にあるタロットカードを持ってこい。」
「あ、はいっ!」
突然命じられて、慌てて俺は隣室へ走る。
ややあって、取ってきたカードの箱をDIO様に渡すと、DIO様は一枚ずつカードをめくり確認し始めた。
「……『力』は駄目、『悪魔』と『吊られた男』も死んでいる。『皇帝』………ホル・ホースは生きているのだろうか。エンヤは殺す気まんまんだったようだが。一応あとで確認を取るか。あとは、『運命の車輪』……は、この間使ったか。
………………ふむ、せいぜい残ったのはこの四枚か。」
呟き、DIO様はより分けた四枚のカードを俺へと渡した。そして、
「壁に貼り付けろ。適当に離して、距離が均等になるようにな。」
「は、はい……。」
よくわからぬまま、言われたとおりカードを壁に貼り付ける。
ここから次の刺客を選ぶのだろうが……何をするつもりだろう。多分、カードを使って何かしらの儀式でも行うのだろうか。
DIO様はカードが貼られた壁の方へ向き直ると、ゆっくりと目を閉じた。
次の瞬間。
…ドスッ。
壁に一本のナイフが突き刺さる。
目を閉じたまま適当に投げたらしいそれが刺さったのは、『太陽』のカードのすぐ横。
「ん、アラビア・ファッツか。早速連絡を取るとしよう。さて、その次は……。」
「……………あのDIO様ちょっと………。」
二投目を投げようとしているDIO様に、堪え切れなくなり俺はツッコミを入れた。
「流石に、ダーツで決めるのは、ちょっと。しかも目ぇつぶってとか。」
「仕方なかろう、見えているとつい場所を狙ってしまうのだ。」
そういう問題ではない。一応帝王なんだし、とついついエンヤ婆のようなことを思ってしまう。
そうこうしている間にDIO様はさっさと刺客を送る順番を(ダーツで)決め終えたらしい。壁のカードとナイフを回収しながら、やれやれという様子で呟いた。
「しかし、奴ら相手にあと4人というのは流石に心もとないな。そろそろ次の奴らを呼び寄せておくべきだろう。」
「え、次の奴ら?って一体…。」
「無論、次のスタンド使いたちのことだ。」
「ええ!?DIO様、あのタロットカードの奴らの他にもまだスタンド使いがいるんですか?」
「当然だ。何のために世界中で人材を探し歩いていたと思っている。」
ふふんと得意げに言うDIO様。
「タロットカードを象徴に持つ者達は大半がエンヤによって集められた者達だが、今度の奴らは私自らが選びぬき、スカウトしてきた者達だ。しかも、弓矢による発現ではなく、生まれつきスタンドの才能を有する者がほとんど。恐らくその実力は、これまでの奴らをはるかに上回るだろう。」
「はぁぁ……。で、一体何人くらい……?」
「うむ。世界各国を巡ったかいもあり、実力があり、しかもこのDIOに忠誠を誓うであろう者を大体9人ほど……………。」
と。
そこまで言ってから、DIO様は急に言葉を切った。
しばし部屋に沈黙が満ちる。
何事かと驚く俺に対して、やがてDIO様は無表情のまま、再度口を開き、
「……………9人ほど、見繕って連絡先を控えて、名簿にしておいたものをエンヤ婆が管理していたはずだったのだが……………さて、屋敷の一体どこに仕舞われているのだろうか…。」
「…………………DIO様……………。」
俺は望まずにはいられない。
強くなんかなくていい。スタンドとか別になんでもいい。
求む、館の管理のできる奴。
End
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テレンスフラグ。
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