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6.神に裁かれるといいよ
●月※日、神学生が館に来る。
「‥‥‥‥折角DIOに会いに来たというのに、何故君とふたりきりになんかならなきゃいけないんだ。」
「知るか。つか不満なら帰れ。
DIO様が戻られたら、お前が来たってことだけは伝えといてやるよ。」
「私はDIOに呼ばれて来たんだよ。DIOに会わずに帰れるわけがないだろう。
第一アメリカからここまで航空代がどれだけかかると思ってるんだ。」
身勝手極まりない言い分に、俺は今日何度目かのため息をこぼす。
正直、俺はコイツが嫌いだった。
何しろこのガキ、エンリコ・プッチは、DIO様にえらく優遇されているのだ。
暖炉横の椅子に腰かけたまま、頬杖をついて俺を眺めているこのガキは、DIO様の部下ではない。「友人」だと当人やDIO様は言っているが。
部下ではないため、忠誠を誓わされることも、肉の芽を植えられることもない。会う時はわざわざ他の部下に見つからぬよう館や館以外の別の場所を使い、時にはDIO様自ら足を運ぶ。更にはあろうことか、DIO様のことを呼び捨てにすることさえ許されているのだ。
俺は別にDIO様に心酔しているというわけではない。だが、それにしたってこいつの特別扱いっぷりには腹が立つ。
今だって、燃える暖炉の側に座ったまま、走り回る俺をぼんやりと眺めているだけで、気遣う様子もない。
一応客人だからと俺が茶を出してやった時も、暖炉に火を入れてやってる間も「やってもらって当然」みたいな顔して礼の一つもなし。いわゆる典型的なお坊ちゃんタイプってやつだ。
畜生。あのDIO様だって、ねぎらいの言葉くらいかけてくれることも、まぁたまにはあるんだぞ。
「しかも、ただでさえウゼェのに、丁度一番忙しい時に来やがって‥‥‥。」
「何だい君、忙しい時期なんてあったのかい?いつも暇そうにしているくせに。」
「今俺がしてること見て言ってんのかそれ!?もしそうなら今すぐ眼科に行きやがれ!!」
巨大な刀剣をかついだまま、俺は力の限りガキを睨みつけた。
その刀剣を、同じく馬鹿でかい木箱の中に放り込むと、ガシャン、と箱の中で物がぶつかり合う音。中身が大分埋まったその箱はずしりと重そうで、おそらく既に常人の腕力で持ちあげることも出来ないような重量になってしまっている。
‥‥DIO様自ら荷を運ばれるわけはないだろうし、つまりはこれは、俺が運ぶしか無いんだろうなぁ。
「くそ‥‥『必要最低限だけまとめておけ、後は来る奴に掃除させる』とかDIO様は言ってたけど、どう見ても最低限って量じゃねーぞこれ‥‥‥大体この剣とか、本当に必要なのか?」
「‥‥‥‥‥随分大がかりだが、まさか、引っ越しでもするのかい?」
「いーや。単なる大掃除だよ。新しく館にスタンド使いの部下が増えることになったからな。」
‥‥‥‥‥実のところ、その新しい部下の連絡リストを探し出すためにDIO様と俺で館中引っ掻き回す羽目になり、結果館中が散らかり放題になったことも、掃除が必要になった理由の一つなのだが‥‥‥‥まあ、これは言わなくてもいいだろう。
「明日明後日のうちには新部下が全員挨拶に来て、そっから何人かが館に残って直接仕えることになるんだ。
正直、人が増えるのは助かるぜ‥‥。なにしろエンヤ婆が死んでから、DIO様のお世話をする役が俺一人になっちまってたからな。」
「え?‥‥てことは君、今までずっとDIOと二人だけで暮らしていたってことかい?」
「ん?ああ、そうなるかな。」
ああ、あとペットショップもいるけど、あいつは外回りの警護しかできねぇし。
何気なく答える俺に対し、プッチは暖炉から俺の方へ向き直り、忌々しげに目を細めた。
そして、低い声で、
「‥‥‥‥‥呪われてしまえ。」
「‥‥神学生が使っていいセリフか?それ。」
「それもそうだ。じゃあ、神に裁かれてしまえ。」
「神ならいいってもんでもねーだろ!」
思わずツッコむ。
プッチは、フン、と不満気に、
「DIOと毎日同じ屋根の下で暮らせるという幸運を享受するのが、お前ごとき薄っぺらな人間、いや人間ですらない下男程度だなんて、本当に裁きが必要だ‥‥。全身裏返ってしまえ。」
「裏返れって言うなら、まぁ裏返るけどな俺は。お前の命令でなきゃ。」
本当腹立つガキだ‥‥。
そもそも人間ですらない程度って、じゃあDIO様はどうなんだよ‥‥‥‥あれ?その辺ってDIO様こいつに教えてるんだっけ?夜行性で太陽光が駄目だってことは知ってるはずだが‥‥。
つーか、今の発言は俺が吸血鬼だってこと分かって言ってたのか?それともコイツは下男=人間以下、とでも思ってる金持ち坊っちゃん思考なんだろうか。ああ結局腹立つ。
「‥‥大体、だからその館で仕える人数がこれから増えるんだっつの。」
「ああ、そうだったね。じゃあ、次に来る使用人はもう少しDIOに対して敬意を払う人間だといいな。後は、もう少し気が利く性格だとありがたい。
例えば、部屋が温まったら暖炉の火を弱めるだとか、人が紅茶を飲んでいる時にはあまり埃を立てないようにするとか。」
「‥‥嫌味しか言えねーんだったら部屋出てったらどうだッ!?」
声を荒らげて勢い良く振り返った俺の手から、持ったままだったノートがすっぽ抜けた。
「あ。」
「え?」
ノートは慣性の法則に従ってまっすぐ飛んで行く。
その先には、プッチ神学生がずっと当たっている‥‥燃えさかる暖炉。
「あああああああッ!!?」
「『ホワイトスネイク』ッ!!」
俺の悲鳴と同時に、プッチの声。
その瞬間、ノートは暖炉に飛び込む寸前ピタリと空中で動きを止めた。
まるで見えない誰かが、とっさにノートを掴んだかのように。
「て‥‥テメェのスタンドか‥‥‥‥危なかったー、助かったぜ。」
「‥‥君ってやつは‥‥‥よくそんな粗忽でDIOに仕えていられるね。」
「うっ、うるせーな‥‥‥たかがノート一冊じゃねーか。」
「たかがだと?少なくとも今の一瞬で私には『第六部・完!』の文字が脳裏に見えたよ。」
なんだよ第六部って。
言葉を返したい気持ちをぐっと抑えつつ、いつの間にかプッチの手に収まっている黒いノートをさっさと受け取った。
ひょいと表返して、表紙を見れば。
「げ。」
「ん?どうした?
‥‥ところで、結局何のノートなんだい?それ。」
「え?あ、あー‥‥‥あれだよ、配下のスタンド使いのリスト。
こないだ見つけたばっかりなのに焼いちまうとこだった。‥‥言っとくが、見せねーぞ。」
「ああ、これから来る人とかのか。別にいいよ、必要ならDIOに教えてもらうから。」
適当な事を言いつつ、俺はさっさとノートを懐にしまう。
そして、まだ少し首をかしげている神学生を尻目に「あーカップ片付けてくるわー」と言いながらティーカップを手に取り、なるべく自然に部屋を出た。
‥‥‥それにしても、本気で危なかった‥‥。
よく見たらこれ、DIO様が時々こそこそ書いてる『日記帳』じゃねーか。
まさかこんなところに隠してあったとは。
DIO様本人は誰にも内緒にしているみたいだし、例え友人だろうと万一見られたらヤバイことになってたろう。
‥‥後でこっそり、DIO様の部屋にでも放り込んでおくとするか。
End
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『OVER HEAVEN』、危機一髪。
あとなんか書いてるのバレバレですよDIO様!