3.生贄はこちらです




メギョッ、ベギギッ、ゴキュ、パグシャァ……

「く……くくくっくくくくくくく………!」

 闇の中、押し殺しきれない笑い声が響く。
 頬にかかった返り血を舐めとりながら、俺は作業を続けた……。





 きっかけは、エンヤ婆の言葉だった。

「全く…DIO様も、一体いつまで貴様のような輩を置いておくつもりなのやら……。」
「あぁ?おい、どういう意味だよそりゃ。俺になんか不満でもあるっつーのかよ。」
「不満だらけじゃ!
 よいか、この世界では多くの者がDIO様に心酔し、DIO様に従い、己の力をDIO様のために使っておる!DIO様自身、更に配下を増やすためにも自ら世界各国を廻っておられる!
 そんな中、貴様のような何の能力もないようなやつがDIO様のお側にお仕えする資格など、本来ないはずなのじゃ!」
「なっ、何もねー訳じゃねーだろ!?吸血鬼の能力とか!」
「たわけ、それはDIO様に与えられた力じゃろう。しかもDIO様のように強大でもなく、スタンドさえ持たぬ貴様に一体何が出来ると言うんじゃ!
 ん?何が出来る?言うてみぃ、ワシのようなスタンド使いに勝てるか?敵の情報を調べてこられるのか?ん?んん?」


 あぁ……思い出すとまた腹が立つ。あのババア好き放題言いやがって。
 だが、悔しいことに今の俺に言い返す材料はない。

 だからこそ、今俺はここにいるのだ。


「くふふ………ケケケケケケケケ………!
 待ってろよ、あのクソババァ………!!」


 吸血鬼特有の赤い瞳をぎらつかせ、俺はひたすら笑い続けた……。












 そして、あくる夜。


「見せたいものがある……と言ったな。よかろう。やってみせろ。」
「はい!DIO様!御覧ください!」

 俺はDIO様の前にてそう叫んでから、まずは帽子を脱いだ。
 次に髪の毛を全て顔の前におろし、撫で付け、後頭部を完全にむき出しにする。
 最後に、俺はくるりと反転してDIO様に背を向け、後ろの目を開けてみせた・・・・・・・・・・・

「ほほう!」

 後ろの目から、感嘆の声をあげるDIO様の顔が見えた。期待通りの反応に、つい前の顔と後ろの顔、両方の口がにやける。


 これが俺の新たなる能力、名づけて『女の顔』!(まんまじゃねーか、とか言うなよ)
 適当に顔のいい女を殺して顔面を切り落とし、髪を抜いておく。そして俺の後頭部を少し削ぎ落とし(すげー痛かったが我慢した)、そこに女の顔を貼り付けて髪の毛を植えつければ、あっという間にもう一つの『顔』の出来上がり、というわけだ。
 ………ぶっちゃけ、顔をくっつける作業よりも、その後表情や視覚、声帯を使えるようにするため神経を繋いだり訓練したり、背中に女の胸(日常生活に支障が出ると困るので並盛り程度)を作ったりしたときのほうがよっぽど苦労したのだが、努力の甲斐もあってその成果は上々、先程やった『実験』も大成功だった。

「いかがですか……DIO様。この顔を使えば、油断して近寄ってきた人間を殺すのは至極簡単。
 これでDIO様自ら外に出ずとも、DIO様の食料である人間を集めてくることが出来るというわけです……。」

 後ろの喉を使い、女の声でそう言ってみせる。
 そして、まだちょっとぎこちない動きで、後ろに積み上げた人間三人をDIO様の前へと転がす。ついさっきこの女の顔で釣り上げ殺してやった、馬鹿な男共だ。
 俺はそのままDIO様へと膝を付き(ちなみに、この『膝を付く』って動作も大変だった。なにせ足をまるごと前後反転させねぇといけねえから)、高らかに叫ぶ。

「これは私が新たに手に入れた力で殺した、最初の生贄!
 この人間たちを、吸血鬼の力を与えてくださったDIO様にお捧げしますッ!!」

 おおうっ!俺ってばこんな敬語使えたのか!
 我ながらちょっと感動してしまう。ともあれ、これで役立たずの汚名は完全返上、エンヤ婆のみならずDIO様も、さぞや俺のことを見直されるだろう。


 思ったとおり、やがてDIO様はぱち、ぱち、と手を叩き、静かな声で言われた。

「………見事だ。
 己の能力を活用し、更に工夫を凝らして向上しようとするその精神……。正直、驚いた。」
「はっ!勿体無きお言葉!恐縮です!」
「うむ、素晴らしい。が、一つ良いだろうか。」
「はいっ、なんでしょうか!」
「知っての通り、私は女の血を好んで飲む。
 だがお前のその裏の顔で人間を狩る場合、釣れるのは男ばかりになるような気がするのだが。」
「……………………………………………………………………え?」















 ………15秒後に「まあ面白かったからいいけどな」とDIO様が言われるまで、俺は死を覚悟したまま完全に硬直していた。








End



    


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あと一歩抜けているところがヌケサククオリティ!



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