2.野望を叶えたまえ




 ◯月△日、くもり。
 妙なババアがやって来た。




 俺がこの館に来てそろそろ一週間が経つ。どんなに訳のわからねぇ事態でも、続いてしまえば嫌でも慣れる。命じられたことをこなしたり、陽の光を避ける術も身につけた。
 何度かあの男……DIO様に挑んでみようともしたのだが、「絶対に勝てっこない」ということを理解しただけだった。
 従わなければ殺される。なら、従う他にない。


 そんな時に、突然そのババアはやってきた。
 どうやら俺と同じくDIO様の部下で、エンヤとか言うらしい。不気味なババアだ。
 そのババアが、俺を指さしながらDIO様に言った。

「DIO様、あの者はなんですかな。」
「ああ、あれか。この間道端で拾ってきた。」

 …俺は犬か猫ですか。

「身の回りの世話でもさせようかと思ってな。」
「…人材ならばワシに任せて頂きたいとあれほど申しましたのに……適当なものを使って、万一裏切られでもしたらどうするおつもりです。」
「心配ない。既にそいつは実験がてら、私の血を与えて吸血鬼にした。今後私に刃向かうことなどできん。」

 自信満々に言うDIO様。
 なるほど、つまりあのエンヤとかいうババアは、DIO様の部下の中でも中核か幹部のような存在らしい。エンヤはDIO様の台詞を聞き、眉を顰める。

「ほぉ……つまりそやつは、既にDIO様と同じく日光に当たれぬ身になった、と。それでは一体、誰が日用品を買いに昼間外に出るのですかな?」
「…………………………………あ。」

 おいおい。

「全く……!ですから人材はワシに任せるように言いましたのに!食料は必要ないとしても、石鹸やちり紙、ゴミ袋なんぞは消耗品なのですぞ!日暮れ後も開いている店はそう多くもないし……もっと後先考えて行動なされ!」

 前言撤回。
 部下じゃねぇ。オカンだよこいつ。

「成程な…。そういえばそろそろ石鹸が切れるんだった。あとワインも……。」
「そんな事じゃないかと思って、今ワシの息子に買いに行かせております。しかしよいですか、DIO様。帝王とはもっと常に先のことまで読んで……。」
「あーわかったわかった。…しかしそうなると、今後部下には人間をやめさせないままで私に忠誠を誓わせなければならないのか………どうしたものか。これは今後の課題だな。」

 ううむと顎に手を当て、のんきに唸るDIO様。
 エンヤ婆はそれを見て、がっくりを肩を落としてため息を付いた。

「DIO様………あなた様がそのような様子では、どうにも不安ですじゃ……。
 いや、無論のことDIO様のことは信頼しておりますし、DIO様のお力についてもよぅく存じ上げているつもりにございます。………しかし、世界の覇者となるには少々覚悟というか、心意気が足りぬというか……。」
「は、覇者ぁ?って、世界征服でもするつもりかよ?!」

 いきなりスケールのでかい話になった。
 思わず俺が声を上げると、エンヤはジロリとこちらを一睨みし、

「無礼な口を聞くんじゃない、下郎が。
 ふん、まあよいわ。己の仕える主人の野望くらい、知っておくがいい。
 この御方は、この世の何よりも優れた力を持っておられる。永遠の時を生きる肉体も。そしてこの御方はいずれ世界のすべてをその力でもって支配し、帝王としてその頂点へと君臨なされれる……必ずじゃ!そして、その行く末をこの目で見届けるのが、ワシの望み……。」

 …どうでもいいが、ババアの分際で遠い目とかしないでほしい。

「……故にッ!!貴様はDIO様の野望が成就されるその日まで、全力でお仕えするようにッ!!わかったな!?
 それでは、ワシはもう帰りますが、DIO様も、帝王としての誇りとか自覚とか威厳とかを常に忘れぬよう、お願いいたしますぞ!」
「あー、わかったわかった。」
「返事は一回ッ!」


 そんな感じで、言いたい放題言ってようやくババアは帰っていった。
 残された俺に対し、DIO様がポツリと呟く。

「…………別に奴が覇者となるわけでもないだろうに、何故エンヤはあそこまで世界征服に固執するのだろうなぁ……。正直、口やかましい事この上ない。」
「……ひょっとして、あのババア若い頃自分で世界征服目指してたんじゃないですか?」

 俺の言葉に、しばらくしてからDIO様はぽんと手を打った。








 や、納得されても困るんすけど。







End



    


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 この後、「人間止めさせずに忠誠を誓わせる方法」として、肉の芽が考案されたり。



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