1.天使が現れた
○月×日、雨。
今日、俺は死んだ。
……いくらなんでも、これはないだろ。
そりゃ俺だって、孫に囲まれて大往生、なんて死に方ができるなんて思っちゃいなかったけど。
にしたって、人気のない裏路地で、盗んだ財布を落っことして、這いつくばって探している最中に突然現れた妙な男に殺されるだなんて、情けないにもほどがある。
俺を殺した男は、デカい図体に金髪の、よく分からないやつだった。殺された時にそいつが何か色々としゃべっていたような気もするが、もう覚えていない。
首に突き刺さったのがナイフだったのか、それとも別の何かだったのかさえ、既に曖昧だ。覚えているのは、男のニヤリとした笑みと、首筋の熱さだけ。
ああ、ちくしょう。俺の人生こんなはずじゃなかったのになぁ。
通りすがりのキチガイに殺されて幕引きなんて、あんまりすぎるぜ。
なんか光が見える。どうやら、俗に言う「お迎え」が来たらしい。別に俺は神だの仏だのに祈ったことはなかったが、死ぬ時にキレーなねーちゃんが来てくれるってんならキリスト教様様だ。
やがて目の前に、真っ白い羽を生やした天使様が現れる。
俺を天国へと連れてってくれるはずのそいつは、しかし何故か、おごそかな声でこう言った。
『おお ああああ よ、 死んでしまうとは なさけない !!』
「ドラクエかよ!!
しかも勇者名『ああああ』だし!!」
ガバァッ!!とツッコミに身を任せて思い切り身を起こし…………て、あれ?
気がつけば、俺は真っ暗な部屋の中にいた。
古い造りで埃が舞っているが、不自然なくらいに広い。部屋の中央には何故か巨大な棺桶が置かれているし、窓はすべて板が張り付けられていて一切の光が入ってこない。今がまだ夜なのか、それとも既に朝になったのかさえ、全くわからない。
……ん?
そういや俺、なんでこんな真っ暗なのに棺桶や窓のことがわかったんだぁ?
「ほう……ようやく目覚めたか。」
声は突然、後ろからした。
慌てて振り向くと、いつの間にいたのか、男がひとり立っていた。
間違いねぇ、俺を殺しやがったあのキチガイ野郎だ。
だが、今すぐにでも飛びかかってやるか、あるいは逃げるかするべきなのに、俺の体は何故か凍りついたように動かなかった。
「ずいぶんと時間がかかったな。やはり、まだ血が薄まっているのだろうか………どうしたものかな。」
独り言のようにつぶやく男。その全身から、何かヤバいオーラが漂いまくっている。
今下手に動いたら、きっと死ぬのは俺の方だ。そんな気がして、俺はかすれた声で「誰だ………?」と呟くのが精一杯だった。
「私か?
私の名は、DIO。お前の主人となるものだ。」
「……主人……?」
「そう。お前には、これから私の世話をしてもらう。」
「……いきなり何言ってんだ?てめぇ……。」
「拒否するか?だが、お前にその選択はできない。お前は既に人ではなくなっているからだ。
お前はもう、人間としての生活に戻ることは出来ない。進むべき道はただ一つ……私に仕えることだ。」
…………どうやら。
あの天使は、俺を天国ではなく、とんでもねぇところに連れてきやがったらしい。
End
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この時代の、それもエジプトにドラクエがあるのか?という質問は許可しない。
「OVER HEAVEN」発売前に書き始めたので、小説での描写及び時系列とは色々異なっております。
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