ラスボスとごはん その2





 彼は今、悩んでいた。

 憂いを含む横顔、物思いにふけるその様子。
 しかし、美しきその姿とは裏腹に、彼を悩ますその命題とは非常に一般的かつ庶民的。全国の主婦及び主夫が同じように毎日頭を抱えているであろう議題。

 『今晩の献立』であった。


(・・・・・・唐揚げ、にしようかな。)

 寒空の下、彼は一人思案を巡らす。


(手間もかからんし、楽だし。多少味を染み込ませる時間が必要だから、少し夕飯の時間を遅くしないといけないが。
 あ、いや駄目だ。小麦粉をもう切らしているんだった。今の時間では、もう店は開いていないだろうし。素揚げにすると手抜きのように見えるからまた文句を言われるだろうし・・・・・・。
 むしろ、煮物にするか。大きめに切った野菜と一緒に煮込んで・・・・・・出汁は肉から出るし、野菜は何が今あったかな。たしか、キャベツとセロリと人参と芋と・・・・・・・・芋は、何芋だっけ。そうだ、里芋か。・・・・・・・・・・合わんな、あまり。
 待てよ、そもそも煮物では肉に火が通るのに時間がかかりすぎてしまう。唐揚げ程度ならばあいつらも待っていられるだろうが、あまり待たせすぎてもうるさいし、横でウダウダと言われるのもうっとおしい。まぁ、どうせ文句を言うのは一人だけなんだが。)


 ため息をつき、ふっと空を見上げる。夜空の真ん中に浮かんだ月は端が少しだけ欠けており、焼きたてのオムレツを連想させた。


(いっそ、オムレツでもいいかな・・・・・・卵はまだ買い置きが・・・・・・いや、肉がないと不平が出るな、多分。育ち盛りも二人いるわけだし。恐らくその二人は別に何も言いはしないだろうが、残りの一人がなぁ・・・・・・全く、手伝いもしないくせに口だけは多い奴め・・・・・・・。
 そうか。手伝わせればいいのか。今日はもう焼いただけのを出すことにすれば、簡単だが手早くできる。焼くのをあいつに任せればいい。味付けは岩塩か、香草焼きもいいが、さっと醤油をかけただけというのもシンプルでいいな。
 ・・・・・・・・問題は、あいつが火加減という言葉をまるで知らんという事だな。丸ごと炭にする、どころか、跡形もなく蒸発でもさせたら、貴重な食材を無駄にすることになる。
 ああもう、面倒だ。いっそ、もう何もせんか。刺身のようにして、切って皿に盛るだけ。新鮮で柔らかいのを選んできて、足に穴あけて天井から吊るして、活け造りという手も・・・・・・・・・。
 ああ、駄目だ駄目だ、そもそも何故こんなに手間をかけてこの私が料理なんかしてるかといったら、食材の悪さを誤魔化すためではないか。栄養面のほうも多少は補わねばならんし・・・・・・。)



 やがて、彼は諦めた。一層大きく息をついて、その場から立ち上がる。
 結局、今回も全国の主婦&主夫の味方、黄金の手段に頼る他ないようだ。




 彼が決意したちょうどその時、

「カーズ。」

 背後から声がかかった。
 振り向き、闇の中に立つ同胞に声を返す。

「エシディシか。どうだった。」
「・・・・・・すまん、駄目だった。」
「・・・・・・・・またか。まぁ、期待はしていなかったが。」
「途中までかなり追い詰めたんだが、サンタナの馬鹿が取り逃がしてな。マフラーだけ置いていかれたらしい。」
「そうか・・・・・・。仕方ない、今夜もそこらの人間で腹を満たすか。」
「またかよ!いい加減飽きるぜ、全く!カロリーも足りねぇしよぉ。」
「吸血鬼を捕らえられないお前たちが悪いんだろう。」
「っつったってよぉ・・・・・・そんなに言うならお前が狩りゃあいいじゃねぇか。もしくは石仮面つかうとか、色々あるだろ?」
「そうわめくな。今日はカレーにしてやるから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・俺の皿、肉多めに注げよ?」
「構わんが、その分きちんとサラダも食えよ。お前はどうもバランスが悪い。」





 そうして、彼は今日も帰路につく。

 おなかを空かせた三人の同胞達のために、究極生物様は今日も頑張るのである。







End




    

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 原作でやったことなんて一度もないはずなのに、なんかカーズ様は料理万能な気がしている。
 和食洋食中華に菓子もどんとこい、みたいな。やはり究極だからだろうか。






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