<特戦部隊の場合>
「あーあ・・・・・・・・今年もヤローばっかしのクリスマスかぁ・・・・・。切ないねぇ。」
ロッドの呟きに、しかし答えるものは誰もいない。言っても無駄と皆理解しているせいだ。ロッドもそこはわかっているので、あえて言葉を重ねたりはしない。
特戦部隊。獅子舞ハーレム隊長に付き従って、戦場飛び回り今年でもはや十余年。
伊達衆などとは諦めの度合いが違うのである。
「去年は俺ら何してたっけ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・殲滅。」
「あ、そっか。ってイヤイヤイヤ、殲滅は違うでしょG。確かに久々の戦場だったけど、一応コロサズの任務ね、任務。」
「というより、クリスマス自体忘れていたな。特に隊長がそれどころじゃなかった。」
普段より寡黙なGの言葉を、マーカーが引き継ぐ。
去年の今頃といったら、特戦部隊がガンマ団に復帰してひたすら各国の激戦区を飛び回っていた頃だ。しかし自分達にとってはその時、再就職などよりも島に残された元同僚の安否のほうが気になり、結果クリスマスなど楽しんでいる余裕は全くなかった。
「まあ、クリスマスなど我々にはあってないようなものだ。元々そう縁もなかったろう。」
「そりゃそーだけどさー・・・・・・・・。あ、でも一昨年は違ったじゃんか。リッちゃんがケーキ焼いてくれてさー。」
「ああ、そんなこともあったな。」
「隊長が『七面鳥はねーのか』って騒いだら、何故かすげー遠い目して『・・・・・・・4敗して来ました。』とか言ってたっけ。」
「なんだったんだろうな、あれは。」
まさかその次の年は総帥と共に5敗しているとは知るよしもないが。
「で、その隊長は?」
「ん?ああ、部屋で嘆いてたよ。仕事放り出してでも今年こそ一緒に過ごそうと思ってた相手が、クリスマスにお休みなんだって。」
「・・・・・・・・・?それは、吉報なのではないのか?」
「いやいやいや。四本足で茶色い毛並みの、お仕事中にしか会えないおヒトだから。」
「・・・・・・・・・・・・・なるほど。我々にとって吉報だったか。」
毎度毎度出かけるたびに部下の給料その他を大量に競馬場に貢いで来る隊長を思い、マーカーは安堵のため息を漏らす。
少なくとも、今年は無事に年が越せそうだ。
「年末の大レースに賭けるってさ。」
「・・・・・・・・・・・・・・私の安堵返してくれ。」
と。
バダン!
「・・・・・・・・ハーレムはいるか。」
唐突に勢いよく扉を開いたその人物の顔を見て、三人は見事に硬直した。
さらりと流れる金髪で隠した右目。
氷を思わせるような冷ややかな美貌。
そして細い身体にまとう、中性的な雰囲気。
おそよ似ても似つかないが、ハーレムの双子の弟、サービスがそこに立っていた。
「こ・・・・・これはサービス様?今日はまた、一体何用で・・・・・?」
「ハーレムは。」
「え、えーと、隊長なら私室で休んでるはずですけど・・・・・・・。」
しどろもどろとロッドが受け答える。
普段ナマハゲの傍若無人ぶりには慣れているのだが、こちらはそうは行かない。何しろ双子だというのにこちらは『魔女』の異名を持つのだ。
「私室に行ってもいなかった。」
「・・・・・・じゃ、じゃあどっか別のところ行ってるんですかねぇ・・・・・・?」
「待たせてもらう。」
言うと、有無を言わさずズカズカと部屋に入り、手近なソファにどかっと座り込んだ。こう書くとまるで隊長と変わりないようだが、その一挙一動にすら気品のようなものが漂っている辺りさすがである。
しかし、特戦部隊三名にとってはそれどころではなかった。
気品以上に、今日のサービス様は怒りのオーラを漂わせている。
「オイ・・・・・・・・どーすんだよ。誰か何とかして出て行ってもらわねーと。」
「貴様がやれ、ロッド。お前が一番饒舌だ。」
「いやいやいや、俺だと絶対なんか余計なことまで言っちゃうから、ここはGで。それいけ無言の圧力!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・いや、俺にしないでよ無言の圧力。」
「とにかく隊長が帰ってくる前になんとかしなければ、今年のクリスマスは病院で迎える羽目になるぞ!?」
ハーレム隊長とサービス様の仲の悪さはガンマ団内でももはや総帥親子のそれと同じくらい名物になっている。
隊長もおよそ機嫌がいいとは言えないし、サービスにいたっては見れば分かる。これでは、顔をつき合わせた瞬間眼魔砲の応酬になるやもしれない。
むっすりとした顔で足を組むサービス様を見て、予測は確信へと近付いた。頭を抱えたいのを何とかこらえて、ひそひそと作戦会議をする三人。
「せめて何しに来たかくらいは聞き出さないとさぁ・・・・・・。」
「知りたいのか。」
「ええそりゃま・・・・・・・・・・・ってうどわぁぁぁぁぁぁっ!?」
絶叫と共にロッドが飛び上がる。
先ほどまで確かにソファに座っていたはずのサービスが、突然真後ろから声を掛けてきたのだ。
ガンマ団精鋭部隊と恐れられる自分達に、何の気配も感じさせず近付くとは。三人は改めて戦慄した。
「知りたいか。私がここに来た理由。」
「は、え、その。まあもし差し障りなければ教えていただけると幸いかと・・・・・。」
腰を抜かしたロッドの代わりにマーカーが応じる。
すると、サービスはため息交じりに言った。
「ジャンの奴が・・・・・・・・・。」
「はい?・・・・・・・ああ、チンが。」
「今年は書類仕事が多いからクリスマスに休めそうにないと言ってきた。」
「あー・・・・・・まあ、今年はそういうものが多いですから。」
「去年は私もコタローの修行で忙しかったが、それ以外の年はきちんと年末には顔を出させていたのに。なのにジャンのくせに私より仕事をとるなんてあんまりだとは思わないか?」
「は、え・・・・・・・・はぁ、そうですね。」
「だろう。だからとりあえず先程ジャンの研究室にあった書類あらかた燃やしてきた。」
元番人であり自他共に認めるサービスの犬でもあるジャンに同情したくなったのは初めてだった。
というより仕返し方法が女々しすぎる。無論口になど出せないが。
「高松も、来春に予定されている学会の準備で忙しいらしい。グンマとキンタローもそれを手伝っている。
なんでも、ダークマターの形成と浄化がどうとか言っていたな。」
「それは・・・・・・未来の為にも阻止すべきなのでは・・・・・・?」
「マジック兄さんも元総帥として色々と責務があるらしい。まあシンタローと一緒にいられることは喜んでいたが。」
「えーと・・・・・・・それで、結局何故隊長のところになど・・・・・・・・・?」
「いや、ハーレムならばまず確実に暇だと思ったから、今年のクリスマスはここで過ごそうかと。」
(((帰ってくれ・・・・・・・・・・・・!!)))
三人の気持ちは、今ひとつになった。
事情は分かった。出来れば知りたくなかったような最悪の理由だが。
こんなことをハーレムが知ればまず眼魔砲乱射は免れられない。なんとしてでもハーレムが来る前にこの女王様にお帰りいただかなければ、マーカーたちに未来はない。
「あのぉ〜・・・・・・・俺ら、つか隊長も、年末はそりゃもうってくらいもの見事に仕事があるんで、ご一緒されるのは難しいかと・・・・・。」
「私には無い。」
そういえば貴方は青の一族のくせにガンマ団の一員ではありませんでしたね。
「別にそちらに仕事があろうとなかろうと元々構わないんだ。ジャンの奴は単に断ろうとしたから不快だっただけだし。
君達は存分に自分の仕事をしたまえ。私はその横で静かにクリスマスを過ごすから。」
平然と暴論を振りかざすサービスを見て、三人はもはや何を言ってもこの魔女様を退けるのは不可能と悟った。
ならば次の方法として。
「・・・・・それでは、我々は隊長たちご兄弟のせっかくのクリスマスのお邪魔になるでしょうから、当日は別室で仕事をさせていただくということで・・・・・・・。」
「いや、いてくれ。というかいろ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何故。」
「あんな獅子舞と二人きりで夜を過ごすなんて、考えただけで気が滅入る。」
じゃあ誘うなよ!!というツッコミは当然ながら通用しない。
隊長のみを残して自分達は見逃してもらう、という考えもあっさり無に帰してしまった。
もはやマーカーたちに残された手段は、唯一つを残すのみ。
すなわち。
(((三十六計逃げるにしかず!!)))
思うが否や、三人は示し合わせたかのように一斉に扉のほう目がけて駆け出す!
あと一踏み込みで部屋の外へ出られる。そう思った矢先。
扉が、自動的に開いた。
「よぉオメーら。どこ行くんだ?」
見事すぎるほどのタイミングでお戻りいらした、我らがハーレム隊長。
それが、彼らの退路である扉の前を陣取るようにして立っていた。
「いやよー、年末のホイミの軍資金として兄貴と甥っ子に金せびりに行ったんだけど、どいつもこいつも忙しくてそれどころじゃねーって・・・・・・・ん?なんだサービス、珍しいじゃねーかよこっちに顔出すなんざ。」
固まる三人の後ろで、サービスの立ち上がる音。
そして。
「ああ、ハーレム。待っていたんだ。実は・・・・・・・・・・・・・・・。」
地獄の門が開く音が、聞こえた。
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サービス様が動かし辛いことが判明。
てっきりハーレムさんのほうがやりにくいかと思ってたんですが、サービス様の場合気品溢れる女王様でないといけないのでキャラがつかみにくい。ていうか全体的にキャラが崩壊しているような気がする。
そして、ごめんG。無口なせいで完全空気。
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