一年のうちで最も聖なる日、クリスマス。

 ある者は生誕日を迎えた神に祈りを捧げ、ある者は赤い老人の到着を待ちつつ眠りに就く。
 またある者は家族、或いは愛する恋人と共に聖夜の幸福を祝い過ごす。


 それが、クリスマス。







 けれどもそんなもの何の足しにもならないという人も無論いるわけで。

 ここ、ガンマ団は、まさにそういう者達の集まりであった。







<伊達衆の場合>





「あー・・・・・・・・・・今年もそろそろ年末進行の季節だっちゃねー。」
「ぎゃー!考えんようにしとったのに!」
「トットリおめなんてこと言うんだべ!」
「ごご、ごめんちゃミヤギくん!」
「別に、仕方あらしまへんやろ。どうせ言おうと言うまいと来るもんは来るんどす。」


 諦めきったようなアラシヤマの言葉に、ため息を漏らす他三名。
 ガンマ団幹部、通称”伊達衆”は、このガンマ団の中でもとりわけクリスマスと無縁の生活を送る者達である。


「書類仕事に追われるんなんて毎年のことでっしゃろ。いい加減覚悟決めなはれ。」
「身も蓋もない・・・・・。まあ、確かに言ってもしょーがねぇべ。こんなでけぇ組織勤めてて、クリスマスだからって休めるわけでもねぇし。」
「去年はわしら何してたかのう。」
「確かー・・・・・・あ、シンタローを救出せんといかんかったから、慌ただしくてそれどころじゃなかったっちゃ。」
「あー、そういえば。」

 頷くミヤギ。
 あの奇妙な南国の島に(半強制的に)4年ぶりに向かったあの日から、そろそろ2年が経とうとしていた。

「つうことは、一昨年は古毛四か・・・・・。いろんな意味で懐かしいのう。」
「・・・・わてなんかその後は喪哀どしたわ・・・・・・・・・フフフ・・・・・・・・・・。」

 根暗に笑うアラシヤマから全員距離をおく。
 と、そこでトットリがふと気付いたように言った。

「そういやアラシヤマ、お前あんときまだパプワ島におったはずだらあ?」
「へえ、キンタローにコールドカプセルん中押し込められて、そのまま置き去りにされたさかい。」
「恨み節はいいっちゃ。それより、お前は去年どげなクリスマス過ごしてたんだっちゃ?」
「えーと・・・・・・・たしか、ケーキ作っとる最中に七面鳥にはねられて、エルフと一緒に寝込んどりましたわ。」

 限りなく真実の描写なのだが、

「・・・・・・・・・・・とうとうイっちまったべか。」
「近寄らんほうがいいちゃあ、ミヤギくん。多分病気が脳の良くないところまで進行したっちゃ。」
「ドクターを呼ぶべきじゃないかのう・・・・。」
「あんさんら言いたい放題どすなぁ・・・・・・・・!」


 まあそれはともかく、クリスマスなのである。


「つってもなぁ・・・・どうせ一緒に祝えるような恋人もおらんちゃ。」
「家族と祝おうにも、オラんところ今冬越しでそれどころじゃないはずだべ。」
「あー・・・。僕のほうもそげな感じだっちゃ。」
「どうせ男同士で祝っても面白かねぇし、今年も例年通り書類とにらめっこだべな。」
「ある意味わてら、幹部として最良の環境におるんやないどすか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・確かに、誰もおらんクリスマス過ごすくらいなら仕事しとったほうがまだましかもしれんけど・・・・・そんな最良は悲しすぎるっちゃ。」
「・・・・・・・・わしは一応、今年はウマ子と過ごしたかったんじゃがのう。」

 悲しげに呟くコージ。
 始まりと終わりの島にて劇的に再開した生き別れの妹は、現役女子高生として現在スキー合宿に行ってしまっている。今頃あの巨体を存分に動かし、雪面にさぞ深いシュプールを刻んでいることだろう。

「初めての、兄妹水入らずのクリスマスじゃったのに・・・・・・。」

 さめざめとそういうコージに、皆なんとも言えぬ雰囲気になる。

 と。





「・・・・・えっ・・・・・・ぐ、ふぐっ・・・・・・うええぇ・・・・・・・・・・・・。」



 突然廊下の方から聞こえてきた泣き声に、4人は顔を見合わせた。
 トットリが恐る恐る扉を開けると、そこには見知った顔。

「どん太・・・・・・・おめ、何やってんだべ。」
「珍しいっちゃねー。九州男児は泣かんもんじゃないんだらぁ?」

 扉の外に座り込んでいた少年、博多どん太は、4人の顔を見るとぐすんとしゃくりあげた。
 普段飛行艦のパイロットなどをしているどん太に本部内で会うのも珍しいが、その彼がべそをかいているというのもさらに珍しい。

「うっ・・・・・・・うっ・・・・・・お、おいの故郷から、手紙が来とって・・・・・・。く、クリスマス、一緒に・・・・・・・って・・・・・・・・うえええええ・・・・・・・。」
「あらー・・・・・・。そりゃ、可哀想じゃが断るしかないのう・・・。」

 どん太が握り締めた紙を見て、一同は納得する。この季節、そういう者は多いのである。
 自分達ほどではないにせよ、どん太もこのガンマ団内でかなり重要な役職についている。おまけに去年までは色々慌しかった為、今年の業務は恐らく例年をはるかに上回る忙しさとなるだろう。そんな状態で休暇の要請など、死刑宣告の前段階に等しい。
 コージの台詞に、さらに目に涙をためるどん太。

「あーあー、泣くんじゃないっちゃ。正月にでもどうにか埋め合わせすればいいど。家族なら事情知ってるわけだし、それくらい許してくれるっちゃ。」
「にしても、本当に珍しいこともあるもんだべ。普通『おっかあ』って騒ぐのは津軽のほうだのに。」


 慰めの言葉をかけるベストフレンドと、それでも泣き止まないどん太。
 その三人を眺めながら、ふとアラシヤマはどん太の手の中の紙を見て首をかしげた。


「『宮崎 みかん』・・・・?あんさんのお母はん、名字ちがうんどすか?」


 瞬間。
 どん太の泣き顔が、確かに凍りついた。



「・・・・・・・・・・・・まさか。」

 どん太が口を開く前に、ミヤギが音速をも超える勢いでその紙を奪い取った。
 開いた手紙をミヤギとトットリが覗き込むと、確かに「クリスマスに一緒に云々」の文面が綴られている。但し、母となるような年齢の女性とは思えないような丸っこい筆跡で。

 なおかつ、手紙の最後に貼り付けられた写真に写っているのは。
 暖かそうな緑の山を背景に立つ、幼い少女。






「てんめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!その年で彼女持ちかゴラァァァァァァァァっ!」
「絞めろ絞めろ!裏切りもんには制裁あるのみだべ!」
「みぎゃあああぁぁぁぁぁっ!!」



 男ばかりの軍事国家的集団、ガンマ団。
 そのような環境で仲間内に黙って「女を作る」など言語道断、死あるのみ。

 一瞬にして豹変したミヤギとトットリ、断末魔の悲鳴をあげるどん太、そして慌てて止めに入るコージを見て。





 アラシヤマはとりあえず、関わり合いになる前に業務のため部屋に戻ることにした。










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元凶のくせに無視するなよ京都人。
とりあえず初めてマトモに伊達衆書いたんですが、方言がめちゃめちゃなのはご愛嬌。
あとアラシヤマを変態にしきれなかったのが心残り。愛って時に不便・・・・・・。





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