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空条徐倫の場合
私のことを「神父」なんて呼ぶ人がいるが、とんでもない。
私は、彼女の携帯だ。
「………なんつーか、そもそも携帯が勝手に待ち受けやら着メロやら変更するって時点で完全に不良品よね、普通に考えれば。」
橋の欄干にもたれかかり、ため息とともに愚痴を吐き出した。
隣に立つアナスイが、少し困ったような声で応える。
「まぁ、最近の携帯の仕様みたいなものだし、仕方ないさ。俺もこの間好きな曲をダウンロードして着メロ設定したら、翌日問答無用でソナタに変えられたし。」
「へぇ……。ちなみに、何の曲だったの?」
「ああ、ゴールデン○ンバーの『元カレコロス』。」
「………ちょっとそれは、変更されてよかった気もするけど……。
でも、まだいいじゃない。あたしなんか何入れようと確実に賛美歌にされんのよ?なんで電話かかってくるたびにハレルヤ歌う中年なんか見なきゃいけないのよ。
あー、失敗した。やっぱビジュアルなんかで選ぶんじゃなかったわ、ホント。」
ガシガシと頭をかきながら、あたしはちらりと前に目をやる。
先月買い換えたばかりのあたしの携帯は、現在アナスイの携帯と3度目の赤外線通信に挑戦している。向かい合ってギリギリと両手を掴み合う二台(普通、通信は握手のはずなのだが……)は、友好的とは程遠い顔つきで睨み合っている。
先刻と全く変わらぬ様子を眺めた後、あたしは再度嘆息した。
濃いグリーンの機体に、ホワイトで十字架のようなラインが入ったクールなデザインが気に入って購入したのだが……使ってみたらこれが全く思い通りにいかない。
着メロは勝手に変えられるわ、待ち受けがいつの間にかツバメと崖の写真に変わっているわ、絵文字にやたらとカブトムシが多いわ、デフォで入っているメニュー画面がどう見ても厨二病仕様だわと、色々使いづらいことこの上ない。
と、不意に「バキィッ」と音がした。
見れば、さっきまで膠着状態にあった二台が、ついに殴り合いに発展していた。
クロスカウンターで互いに一発ずつ拳を入れた後は、一旦距離をとり、けん制し合う。ややあって、アナスイの携帯がぼそりとつぶやいた。
「………通信エラー。再実行するか?」
「もういい……ウェザー、よくわかった。もうやめろ。」
げんなりと言うアナスイ。ようやく二台は構えを解き、あたしとアナスイのそばまで戻ってきた。
本っ当、やれやれだわ。
「4回目か……あーあ。屋外なら電波も届きやすいかと思ったんだけどな。」
「あ、それ多分関係無いわ。だってうちのプッチ、地下鉄でも楽々アンテナ三本立つもん。確か、機種一緒だったでしょう?」
「え、マジか?ウェザーなんか屋根のある場所にいるだけで余計に声が小さくなるってのに……。」
「ま、単純に携帯同士の相性の問題もあるかもねー。現にエルメェスからのメールは時々届かなかったり2,3日遅れることがあるのに、父さんからのメールだけは確実に届くし。いくら家族設定してるからっておかしくない?ったく、携帯のくせに選り好みしやがって……。」
ていうか、やっぱりあたしもDIOモデルにすればよかった。
親父と全く同じというのは癪だと思って別の種類にしたけれど、あっちはなにせ防水耐衝撃で電池消耗が少ないうえ、見た目がカッコイイのだ。
「承太郎さんといえば………この間あの人からメールが来たんだけど……。
その、なんていうか……語尾というか、文章の最後に、必ず…………あの、は、ハートマークが、ついていて………。」
「ああ……あれね。それなら心配しないでいいわよ、アナスイ。単に仕様……っていうか、DIOさんのイタズラだから。
前にあたしのとこにも来てオエッってなったけど、直接尋ねたら真相が分かったの。」
あたしのときは確か、待ち受けをバフンウニにされた腹いせだと言っていた気がする。
正直、ちょっと同情する………DIOさんに。
「……ああーーッもう面倒くさいッ!!アナスイ、悪いんだけどあたしのメルアド言うから、そっちで直接打ち込んで空メールしてくれる?」
「あ、ああ!勿論構わないぜ。(よっしゃああ!ようやく徐倫とメルアド交換……!)」
アナスイー、心の声漏れてるわよー。ま、別にいいけど。
アドレスをウェザーに口頭で伝えながら、ふとアナスイが今気づいたように「そういえば……」とつぶやいた。
「徐倫の携帯、今日は随分と静かなんだな。
確か、普段やたらと説教してくるって言ってなかったか?」
「ああ、だから今日はマナーモードにしてきたのよ。あんまりにもやかましかったから。」
「へぇ。俺は滅多にマナーモードにしないなぁ。
電車の中とかは仕方がないからするけど、こいつマナーモードだと貧乏ゆすりするもんだから。」
「へー。確かDIOさん……父さんの携帯は、マナーモードだと黙ったまま肩掴んで揺さぶってくるんだって。
あと、友達のトリッシュって子が持ってる携帯は、袖とか裾とかつんつんって引っ張ってくるって。かわいーわよねー。その代わり、着メロは『とぅるるるるん』にしかできないらしいんだけど。」
言いながら、ふと気づいた。
そういやあたし、こいつのバイブ機能ってまだ見たことない……。マナーモード自体は時々していたけど、その間たまたまメールも着信も来なかったし。そもそもたまにこいつ勝手に通常モードに戻しちゃうし……。(意味ないじゃん)
同機種のウェザーが貧乏ゆすり、ってことは、こいつもそんな感じなのかしら?でも、普段あたしに「行儀が悪い」だの「言葉遣いが女じゃない」だのいちいちうるせーこの神父が、貧乏ゆすりなんて無作法なことすると思うと、なんだか笑えるようなムカつくような……。
そんなことを考えている間に、アナスイがメールを書き終えたらしい。
「……よし!徐倫、今送信するな。本文に、俺のアドレスと番号入れておいたから。」
「OK。ありがと、アナスイ。」
アナスイが「送信!」と言うと同時に、ウェザーが手の中の鳩を空に放った。
白い鳩は一瞬で上空高く舞い上がり……即座に急降下してきて、プッチの手の中に収まる。
一拍後。
ガタッ…と、プッチの全身が震えた。
「へっ………?」
ガタッガタガタ……ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!
「ちょっ怖ぁぁーーーーーーーッ!!
いやぁぁーーーッ何これッ!!故障ッ!?」
「違う!徐倫、これはバイブだッ!メール受信したから着信を知らせてるんだッ!!」
「嘘ッ!?違うこれ絶対メールじゃなくてヤバい電波受信してるゥゥーーーーーッ!!」
……つまるところ、これであたしは、どんなに口うるさくともこいつをマナーモードにできなくなったわけである。
本ッ当、やれやれだわ……。
End
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携帯ラスボスシリーズ第5弾、プッチ携帯。
なんと彼だけ一言もしゃべらなかったorz
もとは木村カエラのCMパロとして勢いで書いたネタだったのに、思った以上に好評で長く拍手においてしまいました。皆様ありがとうございます!