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東方仗助の場合
私のことを「殺人鬼」などと呼ぶものがいるが、失礼極まりない。
私は、こいつの携帯だ。
「だからッ!!勝手に着信無音設定にすんなって何回言ったらわかんだよッテメーはッ!!また億泰からの電話とり損ねたじゃねーかッ!!」
「うるさいな…。学校内でマナーモードにするのは常識だろう?教師に見つかれば没収されるのは私なんだからな。少しは考えろ。」
「だったらなんで家帰ってきても戻さねーんだよッ!!絶対単に電話つなぐのがメンドくさいだけだろ!?」
「元々私は静かなのが好きなんだよ。大体、お前の設定する着メロはやかましすぎるんだ。あんなもの熱唱しなくちゃならない私の身にもなれ。そうだな、モーツァルトとか、シューベルトの『白鳥の湖』とかだったら歌ってやってもいいが。」
「今時の男子高校生がンな曲着メロにしてられっか!!」
力の限り怒鳴る。
が、吉良の野郎はどこ吹く風という顔でそっぽを向いていやがる。
っあー、ムカつく。やっぱり、どう考えてもこいつとは合わない。
「携帯選びは相性が肝心」という店員の説明をもっと聞いとけば良かった。……って、購入するまでどんな奴かなんてわかんねぇんだけどさ。
つい流行という言葉に釣られて、『選べる4種類のカバー・着せ替えケータイ』という売り文句のこいつを選んでしまったあの日の自分をブン殴ってやりたい。普通に考えて、そう毎日携帯のカバーなんか選んでいられない。結局いつもこの地味なグレーのカバーをつけたままにしている。時々気分で薄い茶色や淡い紫色に付け替えることもあるが。
そもそもこの4種類のカバー自体、やたらと地味な色しかないというのが一番の問題だと思う。正直どれつけても大差ねぇ。
「……しかも4種類目の赤と黒のチェック模様がいくら探しても見つからねぇ……!箱からも出してなかったはずなのによぉ…。あれが一番派手な方だったのに。」
「ああ、デッドマンな。多分仕事に出たんじゃないか?」
「カバーだけで何の仕事だよ。てーか、カバーってなんか違いとかあんのか?てっきり付け替えると性格とか変わるのかと思ったけど、お前どれつけてもいつもと同じだし……。」
「何言っているんだ、人格は本体に属してるんだから変わるわけないだろう。カバーで変わるのは外見に決まっている。」
「どこがッ!?」
「スーツの色やデザイン、それに髪型、ネクタイの柄。」
「地味ーーーッ!!!」
そんなマイナーチェンジに俺は金払ったのか!グレートにショック!!
俺の悲しみをよそに吉良は「大概携帯のイメージ映像って服装までは変わらないし、毎日一緒にいる相手がいつも同じ格好という点に違和感を感じる奴も多いんだよ」と相変わらず淡々とした口調で語っている。
需要があるらしいのはわかったが、しかしやっぱ納得がいかねぇ…。
「…あ、つか、そうだ。カバーもだけどSDカードも見つからないんだった。くっそー、部屋片付けねぇとなぁ…。」
「おいおい、勘弁してくれよ。そろそろピクチャフォルダも一杯になるっているのに。全く、自己管理ができてないんじゃあないのか?」
「うっせ。……てか、ちょっと待て。
俺、別にそんなカメラ使った覚え無いんだけど、いつ一杯になったんだ?」
尋ねた瞬間。
吉良がわかりやすくそっぽを向いた。
「………オイ、鞄(フォルダ)の中見せてみろ。」
「拒否します。」
「すんなッ!携帯だろテメェ!いいから見せやがれ!!」
「ああっ何をするッ!プライバシーの侵害……!」
「俺のプライバシーだろうがッ!!」
怒鳴って、吉良の手から書類かばん(フォルダ)をひったくる。
万一変態写真が出てきたら、やっぱ俺が盗撮でしょっぴかれるのかな……と少々不安になりながら、強引に中をあらためる。
出てきたのは………。
「………おい。」
「くっ……!ついに……見てしまったか……。」
「じゃなくて………なんだよ、この大量の………猫。」
「フォルダ1が通学中に見かける野良猫セレクション、フォルダ2は隣の家で飼われているミーコの写真。あとフォルダ名『草』はストレイ・キャットっていう猫っぽい草の……。」
「じゃなくてよォォ〜ッ!!どーすんだよこれッ!今時の男子高校生の携帯フォルダにこんな猫写真ばっかり入ってッ!!どう考えてもドン引きじゃねーかッ!!」
「モテるぞ。女子に。」
「マジでか。」
………結局、今日も丸め込まれてしまった。
畜生、なんでコイツ携帯のくせにこんな口が上手いんだろう……?
「……とりあえず撮っちまった分はもういいけど、これ以上勝手にカメラ機能使ってたら、テメェの顔面に猫シール貼っつけてやるからな。」
「たしかにそれは私にとっても恥ずかしい罰かもしれないが、しかし液晶に猫シールなんか貼った携帯を持ち歩くお前の方にもダメージがあるのを忘れるなよ、仗助。」
畜生………!
End
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携帯ラスボスシリーズ第3弾、吉良携帯。
最近ならきっと五種類目の、白地にマリン柄のカバーが出ていると思われます。