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空条承太郎の場合
私のことを「吸血鬼」などと呼ぶものがいるが、とんでもない。
私は、こいつの携帯だ。
「貴様の携帯として、一言言わせてもらうが。」
「急に何だ。カロリー計算なら間に合ってるぜ。」
「違うッ!!貴様、少しは私を飾るということをしようとは思わないのか!?」
「はぁ?」
思わず論文から顔を上げてDIOを見た。DIOはフン、と鼻を鳴らし、
「ストラップもつけん、シールペイントもせん、覗き見防止シールさえ貼ろうとしない!はっきり言って淡白すぎる!」
「何かと思えば……男がそんなチャラチャラしたもんつけてられるか。」
「ストラップぐらい普通だろう!?別にデコれとまで言っているわけではない、ただ何かひとつくらいぶら下げてもよいではないか!何のためのストラップ穴だと思っている!!」
叫びつつ、ほら!と髪をかき上げピアス穴を見せ付けてくる。やれやれ、本当にやかましいやつだ。
長期戦になりそうな予感がして、俺は一旦机に読みかけの論文を置いた。
「特に必要ねぇ。そもそも持ってねぇしな。」
「あっただろう、昔徐倫にもらったイルカのやつが。多少子供っぽいが、あれで我慢してやる。」
「馬鹿野郎あんなもん勿体無……じゃねえ、恥ずかしくて普段つけてられるか。あれはもっと、学会とか、そういう特別な時用だ。」
「学会にストラップつけていくな馬鹿者ッ!!そっちのほうが恥ずかしいわ!!
あとは、あれだ。いい加減待ち受けの画像を変えろ。」
「あん?小まめに変えてるじゃねえか。先週の研究旅行でも変えただろ。」
「だからッ、ヒトデ以外の画像に変えろと言っているのだッ!!」
きいいぃ、とヒステリックに叫ぶDIO。
一体何が不満なんだ。ヒトデ可愛いじゃねぇか。
「なんかこう、貴様が私を開くたびに、こう、顔面にヒトデが張り付いているような気分になるのだ。非常に不快だ。」
「我侭な奴だな。じゃあイソギンチャクなら文句ねえか。」
「あるわッ!!阿呆か貴様、海から離れろこの半魚人ッ!!
あ、それからもうひとつ!!」
「まだあんのか。『一言』じゃなかったのか?」
「やかましい!着メロだ、あれも変えろ。」
「何故。」
「選曲が渋すぎるッ!!毎日毎日、演歌やら相撲応援歌やら君が代やら歌わせられるのはもう沢山だ!もっと洋楽とかポップスとか入れろ!!マイケル・ジャクソンでもいい!」
「ポップス……この前花京院から添付でもらった曲は、テメェが歌うのを嫌がったんじゃねぇか。」
「テレンスから手渡された『ハレ晴れユカイ』のことか!?あれはポップスではない、アニソンというのだ!」
「んじゃ、遊助の『ミツバチ』は……。」
「却ッッ下だ!!!貴様私を何だと思っているッ!!」
バン、と思い切り机を叩くDIO。
ったく、やれやれだぜ。「何だと思っている」だと?少なくとも、使いやすい携帯だとはとても思えねえな。
これがもしも人間相手なら、直接口を塞いでやることもできるのだが。
無論のことだが、携帯が本当に喋るわけがない。
このDIOは俺が見えているイメージ映像に過ぎない。実際のDIOは一台の携帯であり、今も俺の机の上に乗っている。
だが、最近の携帯には「スタンド機能」という機能がついており、購入契約をすると持ち主及び周辺の者に人型のビジョンが見えるようにできているのだ。
音声入力及び携帯との意思疎通の簡略化の為だとかいう理由らしく、確かに何世代か前の小さいボタンだけで操作するタイプよりは格段に使いやすくなっている。
だが……時折、わざわざ携帯に擬似人格まで付与させる必要がどこにあったんだろうか、と考えずにはいられない。現にこんな風に、携帯自身からぎゃーぎゃー文句をつけられている時は、特に。
「ともかくッ、労働条件の改善を要求する!
貴様がどれかひとつでも改めん限り、私は今後メールも受け取らんし電話もつないではやらぬからそう思え!!」
やれやれだぜ。今度はストライキか。
こいつにマナーモードはついてねぇのか。第一テメェは外装が派手なんだから、それぐらいで釣り合いが取れるんだよ。
などと言っても聞く耳を持たないことはわかっているので、俺はただ「やれやれ」と呟くだけに留めた。
そもそもこんなド派手な黄色一色の携帯なんかを選んで買ったのは、単純に他と区別がついて、目立って失くしにくいからだ。
ついでに言うと、防水かつ耐衝撃設計とあったので、海に持っていこうが落っことそうが壊れなさそうなところが気に入ったのだ。海外でも使えるため出張にも持っていけるな、とも考えた。
だが、まさかこんなに口うるさい奴だったとは。
こんな奴が何故か世間では人気のモデルらしく、他と区別するという目的は半分以上果たされていない。現にショップへ行けばバージョン1・3・6・7と各種類が店頭に並んでいる。どうでもいいが何でああも番号が飛んでるんだ。
正直いっそ買い換えてやりたい気もする。だが、こいつの機能自体は高性能で気に入っているのだ。カメラ機能もスピード・精密動作性に優れており、いざという時も研究資料にそのまま使える程高画質な写真が撮れる。……あと、何故か徐倫からのメールや通話が非常に繋がりやすい。
結局のところ、今ここでスネられていても後が面倒なだけだろう。
背中を向けて全身で拒絶の意を示すDIOを見ながら、俺は再度嘆息した。
全く、やれやれだぜ。
翌日。
「帰ったぜ。」
「承太郎!貴様携帯を携帯せずに出掛けるとはどういう……!」
「スト中なんじゃなかったのか。」
「うッ……。」
「やれやれ。ほら、ちょっと首貸せ。」
「はぁ?」
「いいから、しばらくそっち向いていやがれ。」
言いながら、首を傾げるDIOを反転させる。
その首筋、うなじから肩にかけてのところに、ペタリ、と先ほど買ってきたものを貼り付けた。
「………ほう、シールか。」
「これで満足か。」
「フン。まあ貴様にしては努力したほうだろう。仕方があるまい、これで妥協してやる。」
「ったく、どうしてそう偉そうなんだか……本当に携帯か?テメェ。
あ、こら、触ってんじゃねぇ。剥がしたらもう買ってやらねぇぞ。」
「しょうがないだろう、首筋だから自力では見えんのだ……。……これは、形からして、星か?」
「いや、ヒトデ。」
「貴ッ様ァァァァァァァ!!!」
End
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携帯ラスボスシリーズ第2弾、DIO様携帯。やはり黄色。
部ごとにシリーズ出てるというのはいつぞやのボカロパロ(命令形100題「趣味に走れ」)と同じになってしまいましたが。