私のことを「柱の男」などと呼ぶものがいるが、とんでもない。
 私は、此奴の携帯だ。







ジョセフ・ジョースターの場合




「あー……ヤベぇなこれ、完全遅刻だよ。シーザー怒るだろうなぁ……。」

 待ち合わせ場所に向けて小走りになりながら、俺は一人ごちた。
 デートじゃあるまいし、5分10分くらいならあいつもいつもの事と不問にしてくれそうだが、流石に30分は堪忍袋の許容範囲を超えている。
 せめて連絡ぐらいはしておくかと、俺は携帯を取り出した。歩みは止めないまま、隣に立つソイツへと声をかける。

「んー、電話だと怒鳴られそうだし、メールにしとくか。
 おーいカーズ、メール起動してくれ。タイトルは『悪ィ><;』でー……。」
「……………………。」
「…………カーズ?おい、聞いてんのか……ッて、ああッ!!」

 反応のないカーズに何気なく目を向け、思わず声を上げる。
 目は虚ろ、焦点は合わず、顔面も暗い。唇さえぴくりとも動いていない。かろうじてそこに立っているだけ、という無惨な状態。

 どこからどう見ても完全に、思考を停止していた。

「カーーーズッ!!てめぇ、また勝手にフリーズしやがって!!オイッ、起きろコラッ!帰って来いッ!」

 ビシビシィッ、と首筋に波紋チョップを入れてやる。と、

「…………………ハッ!!こっ、ここは一体……あ、JOJO!
 貴様ッ、だから充電する時は一旦電源を切れと何度言ったら!!私は精密機器なのだぞ!?」
「うるせェェーッ、おめーこそ最新式を名乗るならもっと人間様に使いやすい設計になりやがれ!!大体今日の遅刻だってお前が出かけに腹減っただの何だのごねたせいじゃねーかッ!!」
「阿呆!いかに私が省エネ設計だといっても、一週間食事抜きで起動していられるかッ!!」
「しゃ、しゃーねーだろ、忙しかったんだし……。
 あーもー、最新式ってのはどーにも使いづらいったら……一生触らなさそうな機能もアホほどあるし……。」
「私のせいではないだろう。お前が私を使いこなせていないだけだ。あと、フリーズ時に叩くんじゃない!私を昭和の家電と同列にするな、この機械音痴が!」
「あーはいはい、俺が悪うございましたよ。
 ……あーあ、何でこんな携帯買っちまったかなぁ〜。単に形が気に入って買っただけだってのによぉ〜……。」

 ため息をつき、俺は空を見上げる。意識を取り戻した途端にギャーギャーとやかましいこいつを見て、最早メールを書く気力も失ってしまっていた。


 最新式と謳われたこいつを買ったのは、つい先月のことだ。
 各種の便利機能や画素の多さ、フォルダ容量の馬鹿デカさや絵文字の多種性など、宣伝文句は色々あった。だが結局俺がカーズを選んだ最大の要因は、その外装……つまり見た目だった。
 艶やかな黒のカバーに、紅いジュエルカットのビーズが一粒ついたクールなデザイン。スマートでスタイリッシュなフォルムは、厚さなんと1.2cmという脅威の薄さ。
 細く軽く薄く、それでいて頑丈かつ防水加工済みという至れり尽くせりな設計に、なんとも抗いがたい魅力を感じたのだ。


「元々、薄いのが欲しかったんだよなぁ〜。シーザーちゃんなんか、落としても平気な頑丈なの選ぼうとして、結局やたらゴツくて重いの買っちゃったし。」
「ああ、ワムウはなかなか重量があるからな。その代わり、車に轢かれても壊れんぞ。」
「それ、携帯としての丈夫さを超えてないか?」

 ともあれ、そうしたシーザーの失敗を踏まえて、新しい携帯は絶対に見た目の良いものを選ぼうと決めていたのだ。そして事実、カーズは見た目は良い。その形はギリシアの彫刻のように、美しさを基本形としている。
 だが……こいつときたらいいのは見た目だけ!あとは性格といい扱いといい、面倒くさいことこの上ない!
 買うんじゃなかった、という気持ちを込め、再度俺は息を吐き出す。


「どうしたJOJO、息が乱れているぞ。この程度の距離で息が上がるとは、運動不足ではないのかァ?」
「誰のせいだよ……。」
「何ッ、まさか貴様この私が重いとでも……!………………む、メールだな。」
「あ、やべ、シーザーかな?結局メール送ってねぇし……ちょっと読んで。」
「うむ。タイトル:なし………
 『ちょっと!!シーザーへのお土産テーブルに忘れてってるよ!んもうヾ(`Д´*)ノ 冷蔵庫入れとくから、明日絶っ対渡してよね!
 それと、帰りにカメちゃんのエサ買ってきといてね(はぁと)忘れたら、キリキリお見舞いしちゃうぞ
 じゃ、よろしく〜ノシ』…………以上だ。」
「…………………………………………。」
「どうしたJOJO、顔が土気色だが。」
「……………………………よっくわかった。カーズ、今度からメールが来たら先に送信者の名前から言え。」
「……?わかった、設定変更しておく。だが、何故だ?」
「お前に、今後一切スージーQの物まねなんつー世にも恐ろしいことをさせないためだよ………!!」

 腕をわななかせて俺は声を絞り出す。
 だがカーズは理解出来ないという風に首をかしげる。ああもうこれだから人間様の心を理解できない機械野郎は!!

「なんだ、不満か?結構似ていただろう、メール読み上げ機能には自信があるのだ。まあスージーQはよく通話等で声を聞くし、模写するのは容易かったが。」
「ああ、口調から表情までクリソツだったよッ!!だがな、お前の声と見た目でスージーの台詞が出るってだけでおぞましさしか感じられねーんだよ!少しは自分の外見ってモンを考えてやれッ!!」
「携帯に外見云々言われてもな……。第一、通話の際は特に何も言わんだろう。」
「通話のときにはちゃんとスージーQの声だろうがッ!!」
「理不尽な……。」

 むっすりと不機嫌をあらわにするカーズ。
 言っとくが不快なのは俺の方なんだぞ……さっきからサブイボが全く引っ込まねーし。

 結局カーズは不服そうだったが、議論になる前にようやく見えてきた待ち合わせ場所からシーザーの罵声が飛んできて、そのままその日はこの話は流れた。

 だが、俺は覚えておくべきだったのだ……この携帯の陰険さを。






 後日。

「JOJO、『朋子』からメールだ。」
「……………………………。」
「聞いているのか。『東方 朋子』からメールだと言っているだろう。」
「………………カーズ、お前って本っ当性格悪いよな。」
「何だ?設定のとおり送信者の名前から告げてやったぞ。
 どうだ、読み上げるか?それとも自分で読むか?確認した後は、いつものように消去しておくのか?ンン?」
だからッ、それを何でわざわざスージーの前で言うんだよお前はァァーーッ!!これが嫌がらせ以外の何だと……!!」
「……カーズちゃん、いいから読み上げて。」
「あああッスージーちゃーーん!それだけはご勘弁をーーーッ!!」







End










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 携帯ラスボスシリーズ第一弾、カーズ様携帯。

 きっとエシディシ携帯はスージーQが使ってる。家族割りィ!
 そうなるとサンタナを使うのがリサリサ様‥‥と思いきや、実はサンタナの持ち主はシュトロハイムだったり。多分起動にちょっと時間かかる子。持ち主の絶叫っぷりに日々苦労している。


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