064: 写真を撮れ。



ケース1:

 差し入れと称して渡された手製カレーの中に銀紙を発見。
 色合い及び漂う甘い匂いから察するに、ルーの代わりに板チョコを使用したと見られる。
 廃棄。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チッ。」



ケース2:

 日向家の階段に大量のワックスが塗装されており、滑って転倒。
 床に仕掛けておいたエアバック(手元のスイッチにより作動)によって無事着地。無傷。


「ゲロ〜・・・・・・・・駄目か。」



ケース3:

 廊下を歩いている最中、どこからともなく嫉妬玉が飛んでくる。
 普通に避ける。


「運のいいヤツですぅ〜・・・・・・・・!」



ケース4:

 ラボに戻るまでの道のりで、合計37箇所にて仕掛けられたブービートラップを確認。
 破壊してもよかったのだが、俺サマは親切なので全てのトラップを発動前の状態で持ち主のテントへと転送してやった。


「ぎゃあぁぁぁーーーーーーーーーー・・・・・・・。」(断末魔)



ケース5:

 ラボに戻ってみると、俺サマの椅子にブーブークッションを仕掛けるか否かで悩む日向家長男と目が合った。
 いっそ微笑ましい。


「・・・・あうぅ〜・・・・・・・・。」



ケース6:

 ラボにて、急に吹雪いてきた。10月なのに。室内なのに。
 暖房をつけて解決。


「みゅー・・・・・・・手強い。」



ケース7:

 会議室にて、俺の座席の前に飾られた一輪差しの菊を発見、
 無視。
 つーか地味。

「そんなぁ・・・・・・。僕がされた時は本っ当に落ち込んだのに・・・・・・・・ドロドロドロドロ・・・・・・・。」



ケース8:

 道路に点々とカレーが置いてあり、角を曲がってどこかへと続いている。
 一応追ってみると、終着点には巨大な『クルルホイホイ』(鉄筋製、内部にはカレー風呂が配置)が建設されてあった。
 丸無視。オリジナリティのないやつは嫌いである。
 蛇足だが、今回の費用総額は約300万(推測)。


「ドちくしょーーーっ!!かかりやがれってんだーーーっ!!」
















「完封勝利、ってやつかねぇ・・・・・・・・ク〜ックックックックックックックックッ・・・・・・。」

 モニターに映し出されている本日の戦果記録を眺めながら、クルルは笑った。いつもより長く、静かなラボの中に『クッ』の羅列がひたすらエコーし続ける。
 が、暫く笑った後に、クルルはふぅと息をついた。肘をつき、多少不満げに呟く。

「・・・・・・あーあ、つまんねーの。もう終わっちまった。
 だいたい、どいつもこいつもヒネリがなさすぎるんだよなぁ・・・・・・。オッサンは日常の趣味の延長戦みたいなもんだし、タママなんかそもそもイタズラですらねぇし。あと、日向夏美とかアレ、マジでバレないとでも思ったのかねぇ。
 ったく、イタズラってもんが何たるかわかってねぇなぁ。」

 嘆息交じりに好き勝手なことを一人ごちるクルル。
 もちろん一年越しのハロウィンリベンジ大会は見事こちらの大勝利である。が、勝利には違いないが、こうも簡単に決着がついてしまうのも面白みがなくていけない。そしてやはりイタズラとは、本人にのみ多大なるダメージを負わせつつ、ハタから見たら『笑って済ませられる』程度のレベルを維持してこそ、イタズラ本来の抗いがたい魅力を発揮する。直接攻撃や肉体的損傷を求めるなど愚の骨頂。若いモンはそれがわかっていない。

「って、オッサンとか俺よりよっぽど年上だっつーの。ク〜ックックックックックッ・・・・・・・さーて、そろそろ受け身の態勢にも飽きたことだし、いい加減反撃にでも出てやるかねぇ・・・・・・。」

 呟きつつ、クルルは「よっくるしょ」とダルそうに立ち上がる。

 既に、罠及びイタズラが失敗したとわかった時の仕掛け人一同の悔しそうな顔(一部断末魔)は隠しカメラで激写してあるため、イタズラ完了といえなくもない。が、クルルとしては出来ればもっと直接的でわかりやすく迷惑なものをハロウィンの間にやっておきたい。恥ずかしい写真激写は確かに効果的で精神的大打撃を与えられる手段ではあるのだが、いかんせんインパクトに欠ける。自分のような嫌がらせのプロであれば、そのような使い古された方法よりもより斬新なやり方で訴え出るべきである。

「ま、手始めに、日向家丸ごと宇宙に発射させてみせるとかするかな・・・・・・。」

 かなり不穏なことを言いながら、ポテポテとクルルはラボを出た。



 と。



「あ、クルル曹長!」

 何故かラボの前には、モアが立っていた。その姿を見て、ぎくりと動きを止めるクルル。
 別に、会いたくなかった訳でも苦手な訳でも意識してる訳でもなく(強調)、彼女の服装自体に問題があったのだ。
 彼女は何故か、彼女本来の姿をしていた。

「・・・・・・・・なんで、擬態解除してんだよ。あれか、なんか断罪する気か?」
「あ、コレですか?ほら、せっかくハロウィンですし、モアも何か仮装しようと思ったんですけど、地球じゃこの格好がもう十分仮装っぽいからって言われて・・・・・・てゆーか服装規定?」
「ま、そうだろうな・・・・。じゃ、俺はもう行くからよ。」

 言い捨て、その場をさっさと立ち去ろうとすると、モアは。

「あ、クルル曹長!あの、その・・・・・・と、とりっく・おあ・とりーとっ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 そう。
 イタズラばかりに気をとられるなかれ。ハロウィンとは本来、イタズラの代わりに菓子を要求する祭典である。



「・・・・・・・・・・・・手持ちがねぇよ。他あたんな。」
「ええー?お菓子をくれないと、イタズラされちゃうのがルールなんですよ?てゆーか二者択一?」
「イタズラって、何するつもりなんだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、えーっとぉ・・・・・・その・・・・・・ううーんと・・・・・・・・・・あ、地球割り、とか、どうですか?」
「アラレちゃんかよ。スケールが既にイタズラの域じゃねぇっつの。」
「そうですか・・・・・・。それじゃ、ええと・・・・・・・・・ううーん・・・・・・・あのぉ・・・・・・・ええと・・・・・・・・?」

 一生懸命首をひねり考え続けるモア。その様子を見ながら、顔にこそ出さないものの(参ったな・・・・)とクルルも悩む。
 このままでは、おそらくモアは一晩中でも考え続けるだろう。付き合っていては確実に今晩中にイタズラを成すことは出来ない。仕方なく、クルルは諦めさせようと口を開く。

「別に、必ずイタズラしなきゃなんねぇって法律もないだろ。ヨソ行きゃいいんじゃねぇか?」
「えー・・・・?でもぉ・・・・・・。」
「菓子が欲しいなら、タママあたり狙えば確実だろ?まぁ相当渋るだろうが。隊長や日向家のやつらも用意はしてるだろうし・・・・それとも、もう行ってきたのかぁ?」
「いいえ、まだです。今日とりっくおあとりーとをしたのは、クルル曹長が初めてですから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あん?」
「クルル曹長のところに、一番最初に来たんです。」


 モアの言葉に、クルルは押し黙る。モアはわずかに首を傾け、にっこりと微笑む。彼女本来の色である銀の髪が、あわせてさらりと揺れる。


 そして。
 そうして。

 クルルは・・・・・・・。
















ケース9:

 ラボの入り口にて、星の断罪者であるアンゴル族と遭遇。地球の命運と引き換えに菓子を渡すよう恐喝を受ける。相手は既に擬態解除を行っており、刺激すれば大変危険な状態であると判断。
 また、なんとか破壊を思いとどまらせた後も相手は要求を諦めず、このまま交渉が継続すれば自らの本日の行動も滞ってしまう危険性が有り、ゆえに。


「・・・・・・仕方ねぇな。ほらよ。」
「え?・・・・・・わぁっ!ありがとうございます!」
「いいから、とっととソレ持って行きな。」


 ゆえに。


「あれ?でも、さっき、手持ちがないって・・・・・・。」
「自分で食う分だったんだよ。」
「そうですか・・・・。あ、じゃあ、これモア1人じゃ量が多いですし、もしよかったら、一緒に食べませんか?」
「え・・・・・・・・・・・・・。」









 『偶然』手元にあったパンプキンパイによって、危機を回避。







End

























<おまけ>

ケース10:

「『気をつけろ 甘い言葉と 影に潜んだパパラッチ』by623・・・・・なんてね。ふふふ・・・・・・。」

 そう呟きつつ地下基地から出て行く少年のその手には、小型のデジタルカメラ。 

「油断大敵だな、クルル。敵がいつでも一対一で勝負挑んでくれるとは限らないんだぜ。レンジャーものだって大体多勢に無勢で怪人倒しちゃうし。ま、モアちゃんは別に嘘ついてるわけでも何でもないから、ちょっと意味合い違うかもしんないけどさ。」

 そのデータの中には、お目当ての映像がバッチリと最高画質で保存されている。
 銀髪の少女と一つのパンプキンパイを囲み、居心地悪そうに、けれど多少ながら嬉しそうにフォークを握っている黄色い宇宙人の姿。

「さーてと。今日中に全員分印刷できるかな、コレ。できれば今晩中にみんなに配りたいんだけど。駄目なら、せめてデータ保存だけでも完璧にしておかないとな。」

 少年はわずかに口端を吊り上げる。まるで勝利の美酒を舌先で味わうかのような邪な笑みを浮かべたまま、彼は軽やかな足取りで外に出る。
 振り返り、そして小さな声で呼びかける。恐らく今フクザツかつ幸福な時を味わっているであろうマブダチに向かって。


「Happy Halloween、クルル・・・・。悪夢に変わるその時まで、せめて今は楽しい夢を・・・・・・。」



 昨年の今日、ラジオに乱入してきた特別ゲスト『ダソヌマソ』によってあやうく髪型をアフロにされかけた少年は、今そうして高らかに笑いながら闇の帳の中へと消えていったのであった・・・・・・。
















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 ケロロ小隊&地球人の皆さんによる一年前の雪辱戦、再びクルルの完全勝利・・・・・・・・・・ならず。



 つーことで、今年のハロウィンもクルモアに頼りました。けど今年の勝者はむっつん!
 おめでとう!活躍忘れられつつあるけれどおめでとう!つか去年実はそんな目にあってたのか!初めて知ったよ!

 別にモアちゃんは、むっつんからクルルを騙すよう頼まれたとかではありません。単にアンゴル族の衣装がいいよと言われ、かつクルルのところへ行ってみたらどうかと薦められただけです。にしたってむっつん、なんという黒幕。黄色の喜びも絶望も全て彼の手のひらの上か。この腹黒め!><
 そして、何がなんだかわからない方は、どうぞ「031: イタズラをしなさい。」をご参照下さい。



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