031: イタズラをしなさい。
はぁ?ハロウィン?
ンなガキの祭典に今更浮き足立つかっての。
そりゃ去年は隊長たちに付き合ってやったけど、そん時あのサザンクロス親子に散々ひどい目あわされたしな。我慢強いオレサマでもやってらんねーって。
ズガドォォォォォォォォンッ!!
「きぃぃやぁぁぁぁぁーーっ!!我輩が魂込めて作ったマスターグレード量産型ザグ一個艦隊が、一斉に自決の道を選んで自爆したぁぁぁぁぁぁっ!!」
バサササササササササァッ!!
「うわわああぁ〜!!僕が今まで集めてきたオカルト関係の本がいきなり反乱を起こして襲い掛かってくるぅ〜っ!助けてーーーーっ!!」
ガラガラガラガラガラガタン!
「嫌あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!他の人が乗ってもなんともないくせにあたしが乗ったときだけ体重計が1t723kgを表示するぅぅぅぅぅぅぅっ!!壊れてるとわかってても怖いィィィィィィィっ!!」
つーかよぉ、そもそもハロウィンってのは11月1日の万聖節の前夜祭ってことなんだよな。
元々は鎮魂祭っつーか、言っちまえば盆みたいなもんでよ。先祖の霊が帰ってくるから、一緒になってやってくる悪霊を追い返そうってんで今のお化けの仮装が始まったらしいし。
それが今じゃガキが菓子せびりに来るだけのイベントだってんだから、地球の宗教なんてのも随分と笑えるもんだよなぁ?
「なにぃぃぃぃぃっ!?俺の保管していた火器(手榴弾、ボール爆弾等)が、全てパイナップルにすり替わってるだとぉぉぉぉぉっ!?」
「ひょえええええっ!?僕のアドレスから知らないうちにカララ宛てに歯の浮きまくるよーなLOVEメールが送信されているぅぅぅぅっ!!これじゃまたしても標的が僕になっちゃうですぅぅぅぅぅっ!!」
「そんなぁぁぁぁ〜!!拙者が昨日一日かけて分類した公園の空き缶がいつの間にかアルミとスチールまんべんなく混ぜられているぅぅぅ〜っ!!」
第一、菓子よこさねぇとイタズラするぞってそりゃ恐喝じゃねーの?脅して物品巻き上げてるんだし、立派に犯罪だよなぁ?
そんなもんわざわざ、それもガキにやらせるなんざ俺様には理解できねぇな。正気の沙汰じゃねぇ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!いつか冬樹君とラブラブになった時に行こうと思っていたデートプランのデータが消去されて、代わりに世界各国の縁切り寺のデータがリストアップされているぅぅぅぅぅっ!!!」
「げげげげげげげげっ!?今晩収録の俺の番組のゲストが『ダソヌ☆マソ』になってるぅぅぅっ!?いや来ないと信じたいけどどうなの!?マジで来ちゃうの!?」
「うひゃああぁぁぁぁっ!!零夜叉が何者かによってオレンジと黒のしましま模様に塗り替えられているよぉぉっ!?忍犬で隙がないはずの零夜叉に一体どうやって!!」
「でも、ハロウィンって楽しいですよね。
みんなでいろんな格好したり、お菓子用意したりして。なんだかわくわくしちゃいます!てゆーか、西洋文化?」
あっさりと、目の前の少女はそういって笑った。今自分が散々語ったハロウィン否定説をさらりと受け流されてしまい、黄色い蛙は思わず沈黙する。
モアはそんな自分などお構いなしに、くるくるといつもと少し雰囲気の違うラボの中を動き回る。その頭にはどこで買ったのやら、魔女風の黒いとんがり帽子が揺れていたりする。
いつも巨大なモニターの光しかないクルルズラボを、今日は淡いオレンジ色の照明が照らしている。
誰にやるために用意したやら、入り口付近にはキャンディの詰まった小ぶりなカゴ。
パソコンの脇に飾られた西洋カボチャは、ご丁寧にも目の辺りが渦巻状にくり抜かれている。
それら全てに囲まれて、ついにクルルは笑い出した。
いつも通り、イヤミに。
「ったく・・・・・・・・・どこまでノーテンキなんだかよ・・・・・。」
笑い声交じりの呟きが聞こえたのか、モアはひょいとこっちを振り返り、クスリと笑った。その笑い方がいつもとやや違って感じられ、僅かにクルルは眉を顰める。
するとモアは、ことさら楽しそうに言った。
「それに、モア知ってるんですよ?クルル曹長、ここのところお仕事以外にもこっそり色々準備してたじゃないですか。あれ、ハロウィンの準備ですよね?
なんだかんだ言っても、クルル曹長も楽しみだったんですよね!てゆーか、暗中飛躍?」
「・・・・・・・・・・・・見てたのかよ・・・・・・・・・。」
ち、と舌打ち。けれどモアは気にもせず嬉しそうに言葉を続ける。
「はい!それにクルル曹長、本当はハロウィンのこと全然嫌いじゃないですよね?」
「はぁ?何でまたそこまで言えるんだよ?」
「だって、ハロウィンってクルル曹長が一番好きそうなお祭りじゃないですか!」
勝手に決め付けるな、と怒ろうかとも思ったが、結局やめた。意味がないだろうし、取り立てて不快なわけでもない。
不思議なものである。自説をたった一言で論破され、最近の自分の行動を知られていた挙句、心まで言い当てられてしまったというのに。
何故だか、気分は良かった。
しばらくして、ラボにケロロ達がやってきた。隊員やら地球人まで一緒に、全員やけにげっそりと疲れた顔で。
手にはそれぞれ、様々な種類の菓子を持って。
「貢ぎ物、ってかぁ?ク〜ックックックックック・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・もー呼び方は何でもいいから・・・・・・・・・・・・これやるんで、お願いだからもうヤミテ・・・・・・・・・・。」
隊長の言葉に、後ろの者全員が一斉に頷く。どうやら仕掛けは正常に作動したらしい。ますます機嫌よく笑うクルル。
背後でモアが大量の菓子を見てきゃあと歓声を上げ、「今、お茶入れてきますね!」と言って走っていく。
Trickは大成功。
Treatは大収穫。
なおかつ、この奇妙な幸福感。
なんとなく、今年は例年よりもハロウィンのことが好きになれた気がしたクルルであった。
(いつかぜってー殺すこのメガネガエル・・・・・・・・!!見てろよ来年こそは・・・・・・・・・!!!)
完
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一人の幸せの下には大勢の不幸がつきもの。来年のハロウィンには血の雨が降るかも。
てなわけで、中途半端にクルモアなハロウィンネタです。
ちなみに万聖節とは、キリスト教で諸聖人を記念する為に行う祝祭です。
更にちなみにボール爆弾とは破裂と同時に無数の小型爆弾を空中で飛散させるというもので、別名パイナップル爆弾。
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