ラスボスとごはん その4





 ドサッ!



 壁の向こうから、やたら大きな音が聞こえた。
 あたしは読んでいたファッション雑誌から顔を上げ、ベッドから立ち上がる。部屋を出て、隣の部屋の扉を開ければ、そこには。


「・・・・・・お帰り、父さん。今日は早かったのね」
「・・・・・・・・・・・・・・ああ、ただいま。」

 部屋の真ん中に転がっている、あたしの父親がそう答えた。

 少し前から一緒に暮らすようになったこの父は、仕事から帰ってくるとこうしていつの間にか部屋の中にいる。最初は驚いたものだが、2ヶ月もたった今では馴れたものだ。
 ただ、何故か帰ってくる度、まるで落ちてきたかのように毎回床に倒れているのは何とかしてもらいたい。のそりと起き上がって荷物(これも、何故か持っている日といない日がある)を片付ける父さんを見ながら、あたしは尋ねる。

「たまに2、3日帰ってこないこともあるのに・・・・今回のは一日で済んだの?」
「まぁな。近場だったから。今、何時だ?」
「まだ6時よ。そろそろ、夕飯の準備しようかって思ってたところ。」
「それは、間に合ってよかった。私が作ろう。」

 言って、父さんは部屋を出てキッチンへと向かった。
 仕事から帰ってきたばかりで疲れているだろうに、父さんはいつも自分で食事の用意をしたがる。最初は優しいなぁと思っていたけれど、最近はその真意が理解できる。

「・・・・・・そんなにあたしの料理が信用ならないっていうの。」
「さーて、今日はピッツァにするか。葉だけを乗せたシンプルなマルガリータにするか?それともボルジーニ茸でも乗せるか?どっちがいい?」

 また話題をそらして・・・・全く、ほんの一回食べて死んだくらいで、ずいぶん根に持つやつね。


 父さんがキッチンに立つ。あたしはリビングの椅子に腰掛け、父さんの背中を見つめる。決して目を逸らさず、けれど十分に距離をとって。
 なにしろ、近すぎては巻き添えを食うかもしれないし、遠ければフォローしきれない。
 料理一つで大げさだ、と思うかもしれないが、あたしの父の場合は特別で、こう、なんというか、運命を敵に回してしまっているのだ。



ザグゥッ!

「うおおっ!?」



 ほら、やった。
 あたしは慌てて立ち上がり、包丁で思いっきり左手首をリストカットしてしまった父に駆け寄る。

「ちょっと、大丈夫!?かなり深いけど・・・・えっと、止血剤止血剤・・・・・・。」
「し、心配ない・・・・・だが、一応ちょっと冷蔵庫からカエルを一つとってくれ・・・・・・・・。」
「なんでよ!?そもそもうちの冷蔵庫にカエルなんて入ってるの!?」


 入ってた。


「・・・・・・なんで入ってるのよ・・・・てか、なんで切り傷にカエルなのよ。」

 わけがわからない。が、あまりツッコミを入れている暇もないようだ。
 そうこうしている内になにやら焦げ臭い香りが漂う。

「ちょっ、父さん!フライパンフライパン!」
「ああっ!」

 慌てて火を止めるも、既にソーセージがかなり黒に近い茶色になってしまっている。
 父さんはそれを見てくっと小さく唸り、

「くそ、Act2め・・・・・・。」
「いや、誰よそれ。」
「食料が焦げるのは大体ヤツのせいなんだ!」
「今のは100%父さんの不注意でしょうが。」

 仕方なく父さんはフライパンをコンロから下ろし、別の鍋を火にかけようと再度コンロを回し・・・・・・。


 ゴオオオッ!!!

「ぎゃああぁぁぁっ!!」
「きゃーーっ!!父さん、火止めて火ー!」

 突然コンロから勢いよく火柱が立ち、のけぞった父さんの前髪を焦がす。




 まあそんなこんなで、その後も2、3回死の危機にさらされながらもなんとか夕飯が完成した。
 あれだけの騒ぎがあったにもかかわらず、結構美味しそうに出来上がっている。なんか悔しい。

「じゃ、あたしドッピオ部屋から呼んでくるから。」
「ああ。」

ピンポーン。

「・・・・・?はーい。」

 慌てて玄関へと向かう。
 「どちら様ですかー?」と扉を開けると、そこに立っていたのは変なバンダナをつけた東洋人らしい男性。
 男はにっこりと友好的な、しかしどこか胡散臭いような笑顔を浮かべて、

「やあ。娘さんかい?ディアボロはいるかな。」
「え、父さんならいますけど・・・・何か?」
「いや、なに、いい加減例のDISCは手に入ったかと思って。それともまだ大迷宮あたりでうろうろしてるのか?
 帰ってきてるんだよね。今日は帰還?それとも死亡かい?」
「え、えと、その・・・・・・。」

 一応父さんに取り次ぐと、父さんは苦虫を噛み潰したような顔で「今日はホテル外のみ。防御用を鍛えに行っただけだから戦利品は無い、と伝えて追い返せ。」とだけ言った。

 男が帰ってしまって、リビングへ戻ると、既に父さんは皿を並べ始めている。あたしは少し迷った後、思い切って「父さん。」と声を掛ける。


「なんだ。」
「・・・・その、前から思っていたんだけど。」
「・・・・?」
「父さんって、一体何の仕事してるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」







 しばらく黙った後、父さんは小さい声で「・・・・・・探索。」とだけ呟いた。







End






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 いまだにレクイエムより先に進めない阿呆は私です。早く露伴先生に会いたい・・・・。
 ナチュラルにトリッシュが同居してる&ドピを分裂させてしまったが、普通にこの三人は親子してればいいと常日頃思ってる。





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