寝言で君が呼ぶ名前、それは僕ではなく


4・タママ

 君は眠れるお姫様。
 まだ夢の中で笑う君は、優しく言葉をつむぐ。
 たった一人、愛しい人の名前。


「冬樹君・・・・・・。」
「ですよねぇ。」

 体が埋もれるほど柔らかい高級羽毛ベッドの上で桃華が眠っている。寝言はあるが寝相はいいようだ。

 タママは眠る桃華のすぐ横にちょこんと腰掛け、ため息をついた。
 こういうシチュエーションの場合、隣にいる人(つまりは自分)の名を呼ぶのがセオリーだと思うのだが。まあ、この場合は仕方がないだろう。なんと言っても、桃華にとって冬樹は王子様なのだ。

「にしても・・・・・・なんでモモッチはフッキーなんかが好きなんでしょうねぇ・・・。頼りないし、へにゃっとしてるし・・・・・。」

 以前桃華にそういってみたところ、『ケロロさんだってそうじゃない。』と返され大喧嘩になった。
 少なくとも自分にとって、ケロロは強くてかっこよくて憧れだ。もしかすると、桃華にもそのような色眼鏡が作動しているのだろうか。

「むーん・・・謎ですぅ。」

 桃華はいまだ夢の中。その顔が少々緩み、

「冬樹君冬樹君冬樹君冬樹君冬樹君冬樹君冬樹君冬樹君・・・・・・。」
「うわっ!呪文!?」

呪いでもかけているのか、それとも冬樹が増殖する夢なのか。どちらにせよかなりイヤだ。

「ふゆきくんんんんんん・・・・・。」
「ったくもー、モモッチはぶきっちょさんですねぇ。」

 押して押して押して押し続けてさらに押す。桃華は、恋の方法をそれ以外知らないのだ。
 もちろんタママも押す派だが、少なくとも効果が薄いことを知っている。押して押すよりも、引いたり逃げたりした方がずっと効果的なことぐらい知っている。けれど、そんな器用な真似は自分はもちろん桃華にも不可能だろう。

 けど、桃華はまだ自分より有利な位置にいると思う。今のところ冬樹を好きになるような物好きは桃華だけだから、ライバルが山ほど出現する、ということは無い。
 自分のように、醜く嫉妬した姿を冬樹にさらす事は無いのだ。だから。

 だから、同じ恋するものとして。


「応援ぐらい、してあげるですぅ。」

 タママがそう呟くと、桃華もほんの少し微笑んだ気がした。そのまま、桃華がふわりと腕を揚げ・・・・・・


 ガシッ。

「・・・・へ?」

 ギリッ。

「うわいたっ・・・ちょ、ちょっとまってモモッ・・・」
「冬樹君〜〜〜〜・・・・・・。」
「ッぎゃああああああぁぁぁっ!!」


 ギリギリギリギリギリ・・・ゴキュッ!ボリン!パキッ、ペキッ・・・・・





「前言てっかいですぅっ!力の限り邪魔してやるですぅ覚えてろモモッチぃ!」

 全身包帯まみれ(骨折、脱臼、打撲・・・・・etc)の姿で、タママは固く決心したのだった。











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