海が呼ぶ
青い、どこまでも青すぎる海を見ていると、海で出会ったあの子の瞳を思い出す。深い瑠璃色のあの瞳は、見つめているだけでどこか遠い世界へ吸い込まれてしまいそうだった。
多分、あの子の瞳は海と同じだったんだと思う。
海は大昔から人々を魅了し続けた。この海の向こうに何かがある、大陸や異国だけじゃなく、何か自分の知らないものがある、そんな未知の存在が人を海へと向かわせた。
今こうやって僕が岩場から海を眺めていても、おいで、という声が聞こえてくる。耳元で誰かが呼んでいる。
おいで。こちらには君が知りたがってることがあるよ。君の求めているものがあるよ、と優しく囁く。
目の前の波は僕を誘って手招きしているようだし、風は僕の背中を押すように海に向かって吹いている。
海が、ぐいぐいと僕を引っ張っているのが感じられる。
僕は足を一歩踏み出す。
けど、そこまでだ。
出来れば僕だって行きたい。呼びかけに応じてしまいたい。
海が隠している神秘はどれも知りたくてたまらないと思っていることばかりだし、あちら側に言って何が起こるのか、この眼で確かめたいとも思っている。
でも。
僕は、行けない。
「だって僕カナヅチだし・・・・・・。」
「ンな誰に言っているのか分からん言い訳呟いてるヒマがあるなら今年こそ泳げるようにとっとと練習してきなさぁぁぁぁいっ!!」
海への謝罪を口にした瞬間姉からの必殺の蹴りが飛んできて、あっという間に僕は陸から追い出され腹からダイブしたのだった。
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