寝言で君が呼ぶ名前、それは僕ではなく
1・クルル
静けさにふと振り向くと、作業をしていたはずのモアが眠っていた。
「・・・・・・。」
キーボードに突っ伏して眠る彼女を見てまず思ったことは、少し無茶をさせたかもしれないということだった。
このケロロ小隊の中で自分以外にシステムをまともに使えるのはモアだけだ。敵である地球人に手伝わせるわけにもいかないので必然的にモアが助手になることが多くなるのだが、さすがに今回は少々こき使いすぎたかもしれない。
こいつに何かあると隊長がうるさい。部屋は常に適温なので風邪をひく心配は無いだろうが、こんな体勢で寝ていると起きた時に体のあちこちが痛いだろう。(経験者)
クルルはいくつかのキーをたたき、モアが座っている椅子を平らにした。
断じて優しさなどではない。
クルルは席を立ち、モアの顔の隣あたりにちょんと腰掛けた。モアは全く気付かないようで、小さく寝返りをうつとへらりと笑った。
そして呟く。
「おじさまぁ………。」
「やっぱ隊長かよ。」
思わず呟いた。寝言に対して返事をすると独り言になってしまうが、モアはもちろん気付かない。
「……ギロロさん……。」
「何でおっさんが出てくんだよ。」
「んー…タマちゃん…。」
「本人はお前がそう呼ぶの嫌がってんぜ。」
「うー…やめて下さい……だってドロロさんがかわいそう…。」
「…何があったんだ?」
……いちいち言うとやはり変かもしれない。
寝言はそこで止まった。呼ばれたのは四人。数秒待つ。
やはり、モアは何も言わない。聞こえるのは寝息だけ。
「……馬鹿みてぇだな……。クックッ……。」
呟き、立ち上がる。柄にもなく一瞬期待してしまった自分を心の中で罵倒しつつ、背を向けた。
その瞬間後ろから聞こえた、モアの声。
「……ク……。」
振り返る。モアは変わらず眠っている。幸せそうに。
あの四人が出ていたなら、当然自分もいるとわかっていた。わかっていたのに、嬉しいのはなぜだろう。笑みがこぼれるのはなぜだろう。
「クックック……俺も末期だねぇ・・・・。」
「……ク………。」
「ったく………とっとと言えよ。」
モアが微笑んだ。そして、クルルの言葉につられるように、柔らかく言葉をつむぐ。
「……熊田さん……。」
「誰だよ!」
「そこでモア殿を起こさないようにわざわざラボから出て叫ぶあたり、既にクルルの負けであります。」
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