そのいち。
風が、吹く。
彼は、あまりのことにこの現実をいっそ呪いたくなった。もし手元に藁人形と五寸釘があれば即座に手にとって、そのまま木に打ちつけようとして『現実』というものに髪の毛がないことに気付いて愕然とするだろうと思われるくらい、彼は動揺していた。
彼・・・・ポール森山がこの大会に参加したのは、己の強さを試す為であった。
彼は昔から強さを求めていた。しかし決して己が最強とおごる事はなかった。ひとえに、自分より強い者が常に己の前に立ちはだかった故であろう。
例えば、彼の主人である西澤梅雄などは、今でも彼の中の『最強』の位置に君臨し続けている。ポールの前には何度もさまざまな強敵が立ちはだかった。
それでも、ポールは己の強さをかなり正確に自覚していたつもりだっだ。
そんなときに、宇宙人たちが彼の前に現れた。
能力も強さも、力の方向性も全て未知の彼らを前にして、ポールは自らの強さをもう一度確かめねばならないと強く感じた。力の大きさ、傾向ばかりではなく、己の力とは一体なんであるかを深く知ろうと思った。それと同時に、己の強さを磨く事が出来ればと思った。
全ては、守らねばならない存在を守るために。
たった一人の少女を守るために。
そのために、この大会に参加して、ファイナルステージまで勝ち登ってきた。
なのに。
ポールは呆然としていた。あまりのことにもはや言葉も出ない。
彼の目の前にいる相手も、それは同じのようだった。こちらを見つめたまま微動だにしない、
ファイナルステージは、自分対敵の1対3の戦いだ。敵三人のうち一人がリーダーであり、戦いはその二人の激突となることが多い。
当然相手は完全にランダムであり、参加者の中から不規則に選ばれる。そのため誰が最終的な敵となるかは、対峙してみなければ分からない。
だが。
これは、あまりにも。
「ポール・・・・・。」
不意に、対戦者のリーダーが口を動かした。高身長の自分から見るとあまりに小さなその姿は、内側に溢れるパワーを全く感じさせない。
ポールはその様子を見て、再度自分達を襲った現実と運命とを恨んだ。それと同時にこのような展開を予測できなかった自分自身を恨んだ。
ああ、今目の前にいる人がこの大会に参加するという事実を、もっと深く考えていれば。参加を引き止めていれば。自分が参加を諦めてれば。
そうすれば、こんな悲劇は起こらなかったはずなのに。
再度風が強く吹きつけ、フィールド上の空気をかき乱した。
柔らかな水色の髪が風にゆすぶられるのをポールは黙って見ていた。いつもであればこの身を呈してでも風から守っていたその存在が、今自分の目の前に敵として対峙しているのが信じられない。
守る者と、守られるべき者。
この二人が敵として向き合うとは、運命の神とはどれほど残酷なのか。
しかし、ポールに選択権はなかった。
彼女を守るために、彼女を倒さなければならない。
この矛盾だらけの状態に、彼は逆らうことなど出来ないのだ。
ポールは意を決し、そっと一礼してみせた。
今まで敵にしてきたのと同じように。
それを見た少女は、ほんの一瞬辛そうな顔をした。彼女自身も、今まで家族同然に触れ合ってきた自分を敵に回すのを辛く思ってくれているのだろうか。そう思うと、こんな状況だというのに自分自身が幸福だと思えた。
しかし彼女はその憂い顔を一瞬で引っ込め、彼をしっかりと見据えた。今まで風にあおられていた柔らかな髪は戦闘態勢ということを象徴するかのようにつんと固くなり、光をうけて輝いた。
そんな少女の姿を見て、凛々しいと感じてしまう。今、敵同士だというのに。
そして、彼らは向かい合う。
ポールも、そして拳を握る西澤桃華も、この戦いが無意味なものとわかっていた。
それでも、戦う以外に方法はない。
悲しい・・・・あまりにも悲しすぎる戦いが、今ここに始まろうとしていた。
fin
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本当にゲームであったんですよ、桃華のプレイで最終決戦の相手がポールになったこと。その逆も。縁が強いなぁ。
という訳で、このシリーズでは『本当にあったゲームの話』をしていこうと思っております。一応メロバト設定としては『ケロロ達が地球人も交えて大乱戦格闘技大会を開催!賞金もばっちり出るので気合充分!更に昇進もあり!?敵味方もはや一切関係無しのどたばたアクションが今幕を開ける!』的なノリで。
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