1 初雪降ったら雪見をしよう
「あ。」
読んでいた書物から顔を上げて窓の外を見る。けれど、期待に反して空は朝と同じ曇り空。
「いかがした?小雪殿。」
「あ、うん。ちょっと、雪のにおいがしたような気がしたから。」
「雪の・・・匂い?」
「うーん、匂いっていうか・・・気配、かな。雪が降るかなーって、そんな感じの風が吹いたの。」
「成程。そんなことにも気が付くとは、さすが小雪殿でござるな。」
「そんなんじゃないよ、雨の気配や野分けの時とおんなじだよ。ドロロにだって・・・・・あ、そっか。ドロロの住んでたところは、雪降った事ないんだっけ。」
「左様。天候を化学で操作する事の出来るケロン星では、野分けも雪も目にすることはなかったでござる。」
「じゃ、ドロロは地球に来て初めて雪を見たんだね!」
「・・・そうなるでござるな。ペコポンで初めて見た雪というと、去年隊長たちと雪合戦をした時でござろうか・・・・。」
「違うよぉ!ほら、まだドロロがお友達と再会してなかった時に、里で雪が降ったでしょ?温かくなってきたのに、急に雪が降って、みんなビックリしてたじゃない。」
「ああ、春の雪だといっていたあの時でござるな!あの時は、浅く積もった雪の上で小雪殿とともに修行をしたでござるなぁ・・・・。」
「ねー。そっか、あれからそろそろ二年たつんだねー。去年も、夏美さんを人質にして雪合戦したり、みんなで雪だるまを作ったりしたよね。」
「それから、冬樹氏と隊長殿がスキーやスケートで勝負した事もあったでござるよ。」
「うん、あったあった!今年もそろそろ寒くなってきたし、雪降るかなー?」
「雪が降ったら、小雪殿はまず何がしたいでござるか?」
「え?私?うーん・・・・・まずは、ドロロと雪見をしようか。」
「雪見?」
「うん!何かあったかい物を飲みながら、一緒に雪を見るの!そしたら、次は夏美さんたちの所へ行って、また雪合戦して、あっ、ドロロと忍法雪化粧の術をするのもいいかも!」
「雪の中へ隠れて相手を惑わす術でござるな。」
「そうそう!最近はずっとドロロと地球の平和を守ってばっかりだったけど、またドロロと一緒に修行が出来るね!」
「・・・・・そうでござるな・・・・。」
「・・・ドロロ?どうしたの?」
「・・・・小雪殿。ペコポンの四季とは、よいものでござるな。季節の移り変わりが、過ごしてきた時の長さを正確に教えてくれる・・・・。」
「・・・うん、そうだね。」
「・・・拙者たちがこの星に来てから、実に様々なことがあったでござるな。」
「うん。冬だけじゃなくて、夏には私と夏美さんで漫才もしたよね。」
「小雪殿と夏美氏で、劇の練習をしたこともあったでござる。」
「ドロロが忍者教室を開いたこともあったし、春にはひな祭りもやった。それから、ドロロのお友達が街中に眠たい粒子を撒いた事もあったね。」
「ああ・・・・そういえば、あの時小雪殿はどうされていたのでござるか?」
「う・・・えーっと・・・・眠ってた・・・。」
「・・・別に責めてるわけでは無いのでござるから、そんな顔しなくてよいでござるよ。第一、あのエネルギーは免疫の出ているもの以外全てに作用していたのだから、小雪殿は何も悪くないでござるよ。」
「うん。ありがとう、ドロロ。」
「・・・・・色々あったでござるな。」
「うん。」
「・・・拙者達がペコポンに来て、本当に長い年月が経った・・・・。」
「・・・ドロロ?」
「・・・拙者たちは、いつまでここでこうしていられるでござろう・・・・?」
「何言ってるのさ!いつまで、なんて決まってるじゃない!」
「え・・・?」
「ずっと、だよ!」
「・・・すっと・・・。」
「そう、ずっと。ドロロと私は、ずっと一緒だよ。ね?」
「・・・そうでござるな。ずっと。」
「うん。来年も、その次も、一緒に冬を過ごしているよ。」
「小雪殿・・・・いつも、すまないでござる。」
「違うよ、ドロロ。そういう時は、『ありがとう』って言えばいいんだよ。」
「・・・有難う。」
「そうそう・・・あっ!」
ふわり、と吹いてきた風に確かな『匂い』を感じ、外に飛び出した。
見上げた瞬間、空から落ちてくる白い欠片。
「雪だ!」
おわり。
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小雪とドロロ。時間軸はアニメ側でお願いします。春の初めに出会い、一緒に暮らして、6月の終わり(第13話)に小隊と再会。でも里の話は原作のです。
ちなみに話に出てきた雪合戦の話は第28話、冬樹とケロロが対決したのは第44話、夏の漫才は第18話、劇の話は第29話、忍者教室は第37話、眠たい粒子ってのは第48話です。原作派の方は申し訳ございません。何せ原作だと、冬樹君12歳のままで正月ネタ3,4回やってるもので・・・(漫画ワールドの神秘)
ドロロは地球側に寝返ったとはいえ、故郷の事とかかなり悩んでると思うんです。ギロロの次ぐらいに。だから、たまにこうやって小雪に背中を押してもらう事にすごく感謝していると思います。たとえそれが叶わないかもしれない願いでも。それでも『大丈夫』って言って欲しいんです。
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