082: 手をつなぎなさい。





「冬樹とケロロ」



 僕が手をななめ下にさし出すと、当然のようにそれを握ってくれる。

 そして、僕らは歩き出す。
 他愛もないおしゃべりなんかしながら。

 僕らは歩いていく。すぐ横に並んで。
 身長差のせいで、首と肩がちょっと痛い。
 でもそれすらも、なんだかおかしくて、嬉しくて。



 手を繋いで、並んで歩いていこう。
 僕らは友達だから。

 ゆっくりとした足取りで、互いの歩幅にあわせて歩こう。
 僕らはずっと友達だから。





 一緒なら、きっとどこまでも歩いてゆける。













「夏美とギロロ」



 あいつは意地っ張りだから、あたしが手を差し出したって応えてはくれない。
 だからあたしは、ちょっと無理やりあいつの手をつかむ。

 あたしの片手で、あいつの片手をしっかりと握って。

 あいつがどこにも行かないように。離れてしまわないように。


 あたしは、握った手にぎゅうっと力を込める。
 あいつが強いことを知っているから。
 力いっぱい握ったって壊れないことを知っているから。

 気が付くとあいつも、あたしの手を強く握り返している。
 あいつも、あたしが強いと思ってくれている。




 しっかりと、手を握る。
 台のない腕相撲みたいな、変な格好。

 だけど。





 信頼が、そのまま形になったみたいね。













「桃華とタママ」



 小さな黒い手を、そっと包み込んだ。
 顔や雰囲気で想像していたほどその手は柔らかくなく、所々硬いところや傷なんかがある。

 それは、彼がいつも自分自身を高めようと努力している証拠。


 けど私は、その両手を私の手で覆い隠す。

「あなたはこんなに小さいんだから、無理しないで」と言いたくて。
「泣きたい時には泣いてもいいのよ」と伝えたくて。



 だけど、その手は私の掌をするりと抜けると、今度は私の手にぴったりとくっ付く。
 私の手を包み込もうとしている。

「あなただって女の子なんだから、弱くたっていいんだから、あんまり無理しないでね」と言ってくれているようで。





 小さな温かい手は、私に勇気と安心感をくれた。













「サブローとクルル」



 俺は拳を握って、小さく掲げてみせる。

 お前と手を繋ぐつもりなんてないよ、と伝えるために。


 するとあいつも、小さな手を握り締めて上に上げる。

 ヤローと手を握るなんざお断りだ、とでも言っているようで。



 しばらくお互いの拳を見つめ、突然俺は拳を前に突き出した。
 タイミングは、同時。

 コツンッ、と、音。それと、小さな感触。




 皮膚が触れ合っているところから、お互いの心が伝わってくる。

 相手が俺と同じ事を考えてるのを確認して、俺は小さく笑った。













「小雪とドロロ」



 座り込んだまま手を後ろにやると、小さな手とぶつかった。

 小さいけど、優しい手。
 柔らかいけど、強い手。

 主を裏切ってまで、守りたいものを決めた手。

 振り返らずに手を握ると、彼は少し驚いてから、そっと私の手を握り返してくれた。



 ぽすり、と背中に小さな重み。
 手を握ったまま、背中合わせのまま、彼が私に寄りかかってきてくれたのだ。

 掌から、背中から、彼の温もりが伝わってくる。
 私の温もりも今、彼に伝わっているのだろうか。



 きっと今、彼は笑っている。
 振り返らなくたってわかる。

 ずっと一緒にいるんだから。





















 手を繋ぐだけで、どうしてこんなに嬉しいんだろう。

 手を握るだけで、どうしてこんなに幸せなんだろう。



 触れ合った手から、君がここにいると感じられる。

 触れ合った手から、僕がここにいると教えられる。




 君と僕が、いま、ここに、一緒にいる。


 その奇跡が、つないだ手に伝わるから。















 ありがとう。












End



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