046: 宝物を見せてください。
『ドロロはいつでも木製の鞘に入った小刀を持っている』。
そんな当たり前のことが、不意に気になる日もある。その日のケロロもそんな感じだった。
「ドロロのその小刀ってさ、地球来る前は持ってなかったよね?どこで手に入れたんでありますか?」
「嗚呼、これは小雪殿が下さったのでござるよ。幼い頃小雪殿が修行に使っていた物だそうで。
他にも、拙者がいつも使っている手裏剣やまきびし等の忍具は全て、忍びの里の方々が譲って下さった物。どれもこれも思い出深い、大切な品々でござる。」
ほら、と言って、ドロロはすっと小刀をケロロに差し出した。まじまじと見てみると、確かに柄の所に「小雪」と書かれた跡がある。
しかしそれ以上にケロロの目を引いたのは、あれだけ使っているにもかかわらず汚れのほとんどない鞘であった。小さな傷はいくつも見られたが、刀を抜いてみて刃の方を見ても、よく磨きこまれているのがよくわかる。
「ほぉ〜…大事にしてるんでありますなぁ〜。」
「思い出の品だから、というのが一番の理由でござるが、この小刀自体かなりの名刀なのでござるよ。これほど手に馴染む物は、昔使っていたあのナイフ以来・・・・・・・・。」
「ほへ?ドロロ、昔もそーゆーの使ってたの?」
なんとなく意外だった。暗殺兵といったらワイヤーとか毒ガスとか、そういったものを使うものだと思っていた。
首を傾げるケロロに対し、ドロロは笑って、
「さまざまな武器を使いこなしてこそ、とされているのでござるよ。しかし、刃物を使うことは何度かあったのでござるが、最も使いやすかったのは、やはりあのナイフでござる。任務先で偶然拾った物ゆえメーカー等は存ぜぬが、素晴らしい切れ味だったのでござるよ。」
そう言ってドロロは懐かしそうに目を細め、自らの手に視線を落とした。まるでそこに件のナイフがあるかのように手を握ったり開いたりしながら、
「切れ味だけでなく、軽くてスピードがあり、使う者の意志の通りに動くところとか、時々ナイフ自らが意志を持って相手の急所・・・・頚動脈や心臓めがけて飛び込んでいくかのような感覚、いくら血を吸っても鈍ることのない刃の照り、何より手に吸い付くようにしっくりと手に馴染む柄など、色々気に入っていた品なのでござるよ。
ある時など、夜中にどうしてもその柄を握りたくなって仮眠室を抜け出したことまであったくらいで。」
「それは・・・・また、ものっそい御執心だったんでありますな。」
なんか描写が恐いぞ、という言葉をどうにか呑み込むケロロ。
「しばらく愛用していたのでござるが、ある日突然ぽっきりと折れてしまって。寿命だと思うのでござるが、刃の先が敵の身体に入ったまま回収できなかった為修繕も叶わず、やむなく手放したのでござる。」
「ふ〜ん・・・・・・。」
ナイフとの思い出に浸るかのような遠い目のドロロを見て、ふとケロロは思いついて言ってみた。
「んじゃさ、宇宙オークションかなんかで調べて、同じメーカーの奴探してみるってのはどーよ?」
「え?」
「ドロロそれ気に入ってたんでしょ?」
「いや、気遣いは嬉しいでござるが、今は小雪殿からのこの小刀がある故・・・・・・。」
「いーからいーから。つか、そんなにいい切れ味なら我輩だって欲しいし。
で?どんなカンジなんでありますか?特徴とかは?」
「特徴・・・・ええと、青い柄で、片側にのみ刃があって、柄の所に赤い模様があって・・・・・あと、鞘は白くて金属製、蛇をかたどった印が。」
「青い柄で白い鞘で蛇のマークだと?」
唐突に、それまで部屋の隅でパソコンをいじっていたクルルが口を挟んだ。
ドロロが「そうでござるが。」と返事をすると、クルルはしばらく考え込んでからケロロに手招きした。
?マークを浮べながらケロロがクルルの横まで行くと、クルルはそっとケロロに耳打ちをしてきた。
心なしか、その顔は青い。
「・・・・・・・・・隊長、あのドロロ兵長ってヒト、ヤバいわ。」
「ゲロ?なんでまた唐突にそんなこと?」
「話にあったナイフ。」
「うん?青い柄の?ちっとばかし不気味なデザインでありますよなぁ。で、それが何か?」
「赤い模様のついた青い柄の、蛇の印のついたナイフっつったら、あの『イル・ブラッディ』しかねぇよ・・・・。」
「いる・・・・?」
「ほれ、『イレブン・ザ・ケロッパー事件』とかに使われた。」
「ゲロッ!?あの超有名連続猟奇殺人事件!?」
「持ち主を操って数え切れねぇほど血を吸ってきたいわゆる呪いのナイフで、他にも色々事件起こしてるらしい、その筋じゃ有名なナイフだぜぇ・・・・。宇宙各地でちょくちょく発見されてたんだが、ある時を境に行方がわからなくなってて・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
恐る恐る、ケロロは振り返った。
さっきまでケロロがいた場所では、ドロロが『仲間はずれ・・・・・』とか呟きつつドロドロと膝を抱えている。
そんな当たり前な、のどかな光景を見ても、頬を流れる冷や汗は止まりそうになかった。
「・・・・・・・よーするに・・・・・・・ナイフの限界をさくっとオーバーするぐらい、血ぃ吸わせまくったってことですかい・・・・・・・・。」
「何人分の血かはおして知るべし、ってか・・・・・・・。」
ナイフの呪いに打ち勝つ男、最強暗殺兵ドロロ兵長伝説誕生の瞬間であった。
end
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ネタ考えてからお題を決めました。のでちょっと無理やりですな。
呪いネタというのは新しいのでは、と思って作ったものです。ネタの段階ではクルルとギロロの分もあったんですが、コレと比べてインパクトが薄いとか微妙にまとまらないとかの理由で没にしました。
ちなみに文中の『イレブン・ザ・ケロッパー事件』というのは、世界一有名な猟奇殺人者ジャック・ザ・リッパーをもじりました。ジャックと言ったら11ですから。
そんでナイフの名前『イル・ブラッディ』の方は、単純に不吉そうな単語をくっつけてみただけです。病的血まみれ(怖)。
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