066:どちらか選べ。





 ババ抜き。
 それは単純な子供の遊びなどではない。
 お互いを騙し、己を殺し、いかに相手を不利にするかに全てがかかっている。53枚のカードの内のたった一枚を恐れながら、それでもカードを引き抜く行為は止まらない。最後の瞬間まで、相手の提示するカードを選び続ける。








 そんな状況下であたし、日向夏美は窮地に立たされていた。現在残り三枚の手札の、真ん中。

 JOKER。

 悪魔の絵柄が、愚かなあたしを笑う。こんなカードを顔色1つ変えずにあたしに押し付けるなんて、冬樹を少々尊敬してしまう。あたしは動揺こそしたものの、どうにか顔に出さずにすんだ。しかし、次の番であるボケガエルにババを引かせることは出来なかった。

 現在、奴の手札は2枚。


 この一巡で、ケリをつけなければならない。




 タママがギロロの札を指差して「どーちーらーにーしーよーうーかーなー・・・。」をやっている。ギロロはイライラしているようだが、時間を稼いでくれるのはありがたい。ボケガエル対策をじっくり練ることが出来る。


 そもそも、なぜアタシがババ抜きごときでこうも真剣になっているかというと、アイツが面白がってまたもや『ビリは掃除洗濯皿洗い一週間分』を賭けてきたからだ。

 ここで誤解してもらっては困るが、あたしは別に掃除がしたくないから真剣になっているのでは無い。ただ、あいつを勝たせたくない。敗者(つまりアタシ)を見下し、あざ笑うあいつを見たくない。
 あたしは今のところ(プール以外で)あいつに負けたことがない。だが、万が一あたしがあいつに負けるようなことがあれば、あいつはつけあがり、いつ地球侵略を始めてもおかしくないだろう。

 地球の為にも、あたしは負けられない。つまりは、地球の未来はこのババ抜きにかかっているといっても過言ではないのだ。





 ・・・ちょっと過言かもしれないけど。







 今、ドロロがクルルからカードを引いた。そのドロロのカードを冬樹が引く。アタシの番だ。

 あたしは慎重に選び、引いた。
 ダイヤの3。アタシの手札はジョーカーとハートの3とクラブの7。ハートとダイヤの3を捨てて、残りは2枚。


 そして、ボケガエルがあたしの手札に手を伸ばした。
 緑色の指が、一瞬迷うように揺れる。その瞬間をねらい、あたしはジョーカーをほんの少し押し上げる。

 直視していられずに目を閉じる。
 カードが引き抜かれる感触。目を開ければ。



 アタシの手札は、クラブの7のみ。







(勝った・・・・・・!)


 おわった。地球の命運を握る戦いが、今・・・。











「あ!ジョーカー来た!うっしゃこれで我輩あと一枚!」














「・・・・・・へ?」


 勝利に浸っていたあたしの耳に届いたのは、とんでもない声。目を向ければ、ボケガエルが今まさにジョーカーを捨てているところだった。
 二枚の、ジョーカーを。




「ちょっと・・・どういうことよ!?だってこれ、ババ抜きでしょ!?なんでジョーカーが二枚もあんのよ!」

 叫ぶあたしに、

「ク〜ックックックックック・・・最初に言わなかったかぁ?このゲームは変則ルールをいれて、ジョーカーを二枚入れて代わりに他のカードを一枚見ずに抜いておく・・・・こうしちまえばどれがジョーカーかも分からなくなるって訳よ・・・ク〜ックックックックック・・・・。」
「嘘でしょ・・・・そんな馬鹿な・・・だって・・・だって・・・!」





 それはジジ抜きじゃない!




 しかし、もうアタシの悲痛な訴えが届く事もない。冬樹が表情を変えないわけである。
 暗くなってゆく視界の端で、ギロロにカードを抜かれて手札がなくなり、一抜けしたボケガエルの姿が見えた・・・・・・・。




















 追伸:結局『スペードの7』がジジで、あたしが最下位になったことだけをここに記しておく。
     地球の皆さん、ごめんなさい。








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