01. はじまり
「なりたい職業?うーん・・・・・看護婦さんなんて憧れちゃうかな。」
そういって、少女は花が咲いたみたいに笑った。
彼女は、ありきたりな言い方をするならば『優等生』であった。
訓練や試験の成績はいつも一番で、先生からもよく褒められていた。クラスの委員長も任されていたし、掃除当番や給食当番なんかもサボったことがない。彼女には苦手なことや嫌いな物なんて何もないようにすら思えた。
そして、彼女はとても好かれていた。女の子からはもちろんのこと、クラス中の誰も彼女のことを悪く思っている奴はいなかった。いつだって人に囲まれて、ニコニコと笑っている。
プルルとは、そういう少女だった。
だから、「将来の夢」について皆がわいわいと話している中で彼女がそういうのを聞いて、少し遠くで見ていたギロロは大いに納得した。
看護婦、という職業は、彼女のようにマジメで優しい女の子が目指すものとしてはぴったりだと思えたのだ。
「えー、すごーい!看護婦さんって大変なんでしょ?ヤキンとか、キンキュウとか。」
「それって、民間?それとも軍?」
「どっちもいいけど・・・・どうせなら、軍かな。」
「えーーっ!?だめだよ、プルルちゃん!危ないよ!」
そう叫んだのは、プルルと一番仲のいいアルルだった。ケロロの幼馴染で、ギロロも何度か話したことがある。
アルルは両手を握ってぶんぶん振りながら、必至の形相で言葉を続けた
「だってだって、軍の看護婦さんって、衛生兵のことなんだよ!?弾丸ケンシュツとか、怖いことばっかりさせられるし、それに、最前線に投入されることだってあるんだよ?」
「うん、そうみたいね。でも、私たち訓練兵だし、多分軍関係の方が入りやすいと思うの。」
「だからって・・・・・!」
「それにね。」
一旦言葉を区切り、プルルはちょっとだけ遠くを見た。そして、ゆっくりと言葉をつむぐ。
「あのね、私たちって、侵略種族じゃない?だから、いっぱい戦争するよね。
侵略戦争だから、民間の人に被害が出ることはめったにないけど・・・・・でも、兵士は、いっぱい怪我するでしょ?たくさん怪我して、たくさん人が死ぬこともあるよね。
そういうのが、やだなって思ったんだ。
だから、私、兵士さんたちを治してあげられたらいいなって、思ったの。戦争が起きないようにしたり、人が傷つかないよう守ってあげることはちょっと出来ないけど、怪我した人たちをみんなみんな治してあげられるようになれたらいいなって。私が、みんなを元気にしてあげられたらいいなって。」
そして、彼女は笑う。
花のように。
「だから、看護婦さんになってみたいな、って思ったの。」
プルルが言葉を締めくくると、教室中が静かになった。
いつの間にか、ギロロも含めみんなプルルの話に耳を傾けていたらしい。
やがて。
「す・・・・・・・・・・すごい!プルルちゃん、すごい!」
「そ、そうかな?なんか、えらそうなこと言っちゃった気もするんだけど。」
「そんなことないよ!うん、決めた!あたしも、プルルちゃんと一緒に軍の看護婦さんになる!」
「ホント?でも、やっぱり私まだ迷ってるのよ。フツーに民間のOLさんとかもいいなぁって。やっぱり衛生兵っていったら大変だろうし、いろんな知識も必要だって言うし。」
「大丈夫だよ!あたしも一緒に頑張るから!うわぁ、すごい!すてき!」
さっきまであんなに必死に反対していたアルルが、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。すると、他の奴等も口々にプルルを賞賛したり応援したりし始めた。
無論のこと、離れてみていたギロロも口にこそ出さないもののプルルの言葉にちょっと感動していた。
同年代のなかでここまで将来のことに対して考えている奴がいるだろうか。ギロロですら、「親父や兄ちゃんのような軍人になる」以上のことを考えたことはない。
と。
「たっだいま〜!あり、みんなナニナニ?何の話ー?」
感動ムードに水をさすかのように教室の扉が音を立てて開いた。恐らくクラス内で最も将来のことを何も考えていない奴、ケロロである。
いつもならば教室内での話の輪は、大きく分けてケロロとプルルの二つとなる。女子たちがプルルを中心にしておしゃべりをしている横で、ケロロを囲んで男子が馬鹿騒ぎをする、というのがいつものパターンだ。が、今日のケロロは朝から職員室に呼び出され、勝手に成年訓練所の射撃場に入って練習用の的に落書した件について油をしぼられていたのだ。ちなみに朝その話を聞いたギロロは、昨日用事があってケロロの誘いを断って本当に良かったと感じた。
ケロロは皆の中央にいたプルルを目ざとく発見し、人を掻き分けずかずかと近付いた。そして、
「で、ナニゴト?プルルちゃん。」
「ケロロ!もうっ、少しは空気を読んでよ!今みんな感動してたんだから!」
「なんだよー、別にアルルには聞いてねーじゃん。」
「あのね、ケロロ君。今、なりたい職業について話してたの。」
「なりたい職業?ンなもん決まってんじゃん!ズバリ、世紀の大軍人!脅威の大軍曹!」
「別にお前の話じゃないだろ!」
さすがにアルルだけでは止められないと思い、ギロロも輪の中に入ってつっこみを入れる。
プルルは楽しそうにくすくす笑ってから、「私が、軍の看護婦さんになりたいって話よ。」とケロロに言った。するとケロロは、
「へー・・・・・・プルルちゃん、看護婦になんの?んじゃさ、んじゃさ、俺とギロロ、将来スッゲー軍人になってびしばし活躍するから、プルルちゃんそん時ケガ全部治してくれよな!約束だぜ!」
「ケロロ!お前、そんな強引に・・・・・!」
「うん、いいよ。」
あっさりとそう言って、プルルは。
「ケロロ君たちが怪我したら、全部治してあげる。約束だよ。」
と言って、にっこりと。
花のようにまた、微笑んでみせた。
「もう、プルルちゃんったら本当に優しいんだから!ケロロの言葉なんて、真に受けなくてもいいのよ!」
アルルのそんな言葉で、ようやくギロロは我に返った。我に返ってから、自分が今までプルルに見惚れていたことに気付き、思わず赤面する。
幸い誰にも見られていなかったらしい。というより、皆もまだプルルのほうを見ていたようで、ギロロの方など見ている者などいなかったのだ。
「あら、どうして?ケロロ君やギロロ君たちいつも、ケロン軍に入るって言ってたじゃない。」
「だって、今日だってケロロったらイタズラして叱られてたのよ!どーせ!・・・・・・その、ギロロ君・・・・だったら、とにかく、ケロロなんかになれっこないわよ!」
「そうそう!それよりもさ、俺の方がずーっと出世して大佐とかになってみせるから、将来俺のことも治してくれよ!」
「あ!ぼ、僕も!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ、みんな!んもう、まだなるって決まったわけじゃないんだってば!」
プルルを中心に、皆またわいわいと話を再開させていく。その輪に加わるタイミングを逃してしまい、ギロロは少しばかり寂しさなど感じながら一歩後ろに下がった。
そして、自分と同じで、しかし珍しく輪の中に残らなかったケロロに声を掛けようとして。
「・・・・・・・・・・あ。」
ギロロが思わず洩らした声は、クラスメイト達の声によってほとんどかき消されていた。
クラスメイト達は相変わらず、プルルを囲んで楽しげに談笑を続けている。
だから、気付いたのは恐らく、隣にいたギロロだけだっただろう。
ケロロの、ほんのり染まった頬。
その日生まれた、淡く小さな恋心に。
End
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ケロプル秘話。ああああ書いてて恥ずかしかった。
ラヴいものってどうしても書いててカユい。世の中の恋愛小説家の皆様はどうやってこのハズカシさを克服しているんだろう。
プルルちゃんって可愛さを比喩するなら「花のような」ってのが似合うと思います。夏美なら「太陽のよう」で、モアちゃんなら「光のよう」。ケロロの女の子キャラは皆違った魅力を持っていていい。
ところでアルルちゃんってのはマイオリケロンではなく、ケロロランドの新隊員募集で昔出ていた子です。私も詳しいことは知らないんですが、@二等看護手(つまりは看護兵)Aギロロに片思いラブ、な子らしいです。ケロロ絵本とかでたしか絵が載っていたはず。
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