この間、こんな夢をみた。



 私はどこか見知らぬ道の上に立っている。
 そこはとても暗くて、周りを見回しても何も見えてこない。自分の足元がわずかに伺える程度で、細い砂利道しか見えるものはない。

 しかしそんな中で、見えるはずのない誰かが前方を歩いているのが見えた。

 近づいてみるとそれは、幼い子供だった。
 子どもが四人、うつむいて歩いていた。

 誰一人声を発さない。ただ黙って、おぼつかない足取りで前へと歩いている。
 よく見れば子供たちは、皆一様に自分の足元を凝視していた。不揃いな砂利のせいか足場が悪く、常に注意して歩かなければたちまち足を取られて転んでしまうだろう。

 四人の幼い子供は、光のない目をしてひたすら歩き続ける。
 私はそれを、ただ黙って眺めている。



 ふと、一人の子供が道を外れた。
 踏み外した、と言ってもいいかもしれない。それまで歩いていた砂利道を外れ、全く別の方向へと急に向きを変えたのだ。

 私は声をかけようとした。引きとめようとしたのかもしれない。
 何故なら、砂利道の外側は少年が今まで歩いていた道よりも更に険しく歩きづらそうで、少年が歩いていけるとは到底思えなかったからだ。
 けれど、少年は私が声をかける前に一度だけ私の方を振り返り、あとはもう何も言わずに歩き出した。
 少年はまるで誰かに手を引かれるようにして道を外れ、やがて一人でその新しい道を歩き、やがて見えなくなってゆく。まもなく、少年の後ろ姿は遠い光の中へと消えた。

 そう、少年は光へと向かって歩いていった。
 だから、私は追えなかった。私は光を浴びられない体だから。





 残された三人の子供たちは、しかし一人がいなくなったことに気付いた様子もなく歩き続けた。
 もしかしたら、最初からお互いの存在に気がついていないのかもしれない。彼らは常に、自分の足元しか見ていなかったから。

 長い間、彼らは歩き続けた。
 むき出しの足は何度も尖った砂利に傷つけられ、既に血まみれだった。
 それでも彼らは歩みを止めなかった。
 その歩き方は、遠い目的地を目指している、というよりは、ただ止まることを恐れているというようにも見えた。


 子供は、もはや子供とは呼べないほど成長した姿になっていた。
 それでも私はなぜか、彼らのことを子供としか思うことが出来なかった。





 どれだけ歩いた頃だろうか。
 突然子供たちの前に、一人の男が現れた。
 よく見ればそれは、私の友人だった。私が知っているよりも少し年をとった姿で、なぜか彼も私がいることには気づいていない様子だった。
 彼は口元に笑みをたたえ、子供たちに向けてこう言った。


「よく、ここまで歩いてきたね。ここがお前たちの目指していた場所だよ。
 お前たちは、ここへたどり着くために歩いていたんだよ。」


 彼は前方の闇を指し示し、朗々と言った。

 それを聞き、三人の子供のうち二人は初めて嬉しそうに笑い、彼の元へと駈け出した。
 そして、私の友の指し示す方向へと走って行き、闇の中へと溶けていった。

 最後に残った一人も、同じように駆け出そうとした。しかし、足を一歩踏み出したところで、彼は急にその歩みを止めてしまった。

 私は彼に、「行かないのか?」と声をかけた。
 すると彼は、

「……嫌だ、行きたくない。」

 と答えた。

「何故?」
「……だって、だってあっちは、あんなに真っ暗じゃないか……!」

 泣き出しそうな顔で、彼はそう言った。


 子供たちは今まで、下ばかり向いて歩いてきた。その為、彼らは自分の歩む道の暗さも、その道の先に続く闇の深さも、今まで何一つ見ることがなかったのだろう。
 子供は、彼は今初めて前を向き、自分の歩いてきた道の姿を見た。
 そして、自分の向かう先が巨大な闇であることに、ようやく気が付いたのだ。

「嫌だ…俺は、あんな所に行きたくない。あんな所は、俺の目的地なんかじゃない。」
「ならばお前は、どこへ向かいたいんだ?」
「……わからない。でも、俺は、あんな暗い所へは行かない。行きたくない。」

 呪詛のようにそうつぶやき続ける子供。

 やがて、不意に彼は振り向き、初めて私の事を見た。
 そして、言った。

「……あんたのところに、行きたい。
 なぁ、俺をつれてってくれよ。あんたと同じ所に行きたいんだ。頼むよ、俺をつれてってくれ。」

 私は困惑する。
 そんなことを言われても、私は今ここにいる。先程から私一人だけが、全く動かないまま歩く彼らを見ていた。
 彼らと私が違うところにいることは理解できる。しかし、どうやって彼を私のところへ来させればいいかなんて、私にもわからなかった。

 それでも、なぜかそいつを放っておくことが出来ず、私は彼に向かって手を伸ばす。

 だが、その手が届くよりも早く、彼は突然弾かれたように走りだした。闇へと続く道を外れて、あらぬ方向へと走り出す。
 今度は下を向かず、前を向いて。

 しかし、道の外は道以上に歩きづらそうで、しかも彼は、今まで下を向いて歩いてやっと転ばずに生きてきた。突然下を見ずに走るなんてことが出来るはずもない。
 何歩もいかないうちに彼は砂利に足を取られ、派手に転んだ。そのまま、彼は二度と起き上がることなく、いつしか消えてしまった。
 結局彼も、闇に呑まれてしまった。


 私は周りを見回した。
 真っ暗で、誰もいない。誰も残ってはいない。



 ただ一人、私の親友だけが、深い深い闇のなかで笑い続ける。





























 なぁ、どう思う?

 この夢に、何か意味はあると思うかい?


 夢とは、深層心理の現れ、過去の再編成だという。
 だが、私はあんな子供たち、今まで見たこともない。4人とも、だ。
 ならばこれは、何か未来の暗示じゃあないかと思うのだ。


 もしそうだとしたら、あの夢は何をあらわしているのだろうか。

 彼らは一体、誰なんだろうか。
 最初の一人はどこへ行ってしまったのだろう。
 あの三人は何故、消えてしまわねばならなかったのだろう。









 なぁ、プッチ。


 私は時折、君のことをひどく恐ろしいと感じるのだよ。










End



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 8月は過ぎたけどちょいとホラー。まだ残暑だし、まぁいいよね。

 4兄弟の人生の変遷をイメージしてみたら、暗い暗い道を延々うつむいて歩く4人の姿が思い浮かんで離れなくなったので書いてみました。
 しかしどうしてもDIO様とプッチ絡みだとこういうどんよりした話になりがちだなぁ……。
 タイトルは鬼束ちひろ「月光」より。こんな場所でどうやって生きろというの?

 ……そして、私の夢オチ好きはそろそろ自重するべき。
 (あれ、最初に「夢」って明言してるのは夢オチとは言わないのか?)


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