037: 誤解を解消せよ。






　（みぬき（１０）と成歩堂（２９）、親子で買い物中）



「………お、みぬき。あれがなんだかわかるかい？」
「？なあに、あれ？」
「あれはね、『キャタツ』っていうんだよ。」
「きゃたつ？」
「そう、よく言えたね。それじゃみぬき、あっちのあれは何かな？」
「はしごー！」
「よくできました。
　じゃあみぬき、はしごとキャタツの違いは、なんだかわかるかな？」
「むー……？よくわかんない。どっちも上にのぼるものでしょ？」
「ああ、そうだよ。
　でもね、みぬき。はしごはどこかに立てかけたり、引っかけたりしないと使うことができない。でもキャタツは、広げるだけでどんなところでも使うことができるんだ。部屋の電球を替える時なんかは、電球は部屋の真ん中にあるからはしごは使えない。キャタツなら、電球の真下において広げれば、そこにしっかりと立ってくれる。」
「へぇー……キャタツってすごいね！なんていうか、あれ、『じりつしてます』みたいな！」
「お、みぬきはキャタツのほうが好きかな？」
「うん！みぬき、大きくなったらキャタツみたいな人になる！自分で立って、自分を支えられるような、『きゃりあうーまん』になる！」
「はっはっは、えらいなぁ、みぬきは。
　………うん、みぬきは、本当にキャタツみたいだ。パパとは大違いだね。」
「え？」
「一人じゃ何もできなくて、誰かに頼って。支えてもらえないと生きていけない。支えがなくなれば倒れるしかない……パパは、そういう情けない人間だ。誰かに寄り掛かって、その人に支えてもらってやっと生きていこうと思うことができる。
　昔は、いろんな人が僕を支えてくれた。だから、決して倒れることなく、決してあきらめることなく、立ち続けることができた。お返しに、誰かのことを支えてあげることもできた。………でも、僕はもう、僕を支えてくれていた人たちを、みんな遠ざけてしまった。
　今の僕は、もういつ倒れてもおかしくない、ぐらぐら揺れるはしごにそっくりだ。こんな風に言うと、はしごに失礼だろうけどね。」
「……………パパ………。」
「………だからね、みぬき。今パパが倒れずにいられるのは、みぬきのおかげなんだよ。」
「え？」
「みぬきがパパを支えてくれているから、パパは今日も立っていられる。キャタツにもたれかかったはしごなんて余計に情けないけど………それでも、僕はまだ立っている。
　だから、ありがとう、みぬき。パパのそばにいてくれて。」
「……………うん！」
「よし、じゃあ行こうか。卵のタイムサービスが終わっちまう。ああ、それと。」
「なあに？」
「みぬきは、これではしごとキャタツの違いがわかったんだから、もうキャタツを見ても『はしごだ』なんて言わないね？」
「はーい！」









　（それから数年後、王泥喜（２２）と成歩堂（３３）、買い物中）



「いやー、本当にオドロキ君がいてくれてよかったよ。いや本当に。君のおかげで、僕もみぬきも救われるよ。」
「……たかだか買い物の荷物持ちでそんなに感謝されても、フクザツなんですけど。」
「いやいや、君がいてくれたからこそ、卵が２パック買えたんだよ。
　最近はスーパーでも、『おひとり様１パック』じゃなくて『一家族１パック』が増えてきてるからね。
　まさか君と僕を親子や兄弟と思う人もいないし。これで偏りなくタンパク質を摂取できるよ。ありがとう。」
「なんだかなぁ……。」
「ははは……。あ、ほらオドロキくん、珍しいね。屋外なのにキャ……」

「あ、はしごだ。」


ズベガッコン。


「うわっ！だ、大丈夫ですか成歩堂さん！卵は無事ですか！？怪我は！？」
「……僕より先に卵の心配をしたな……。」（のっそり）
「ど、どうしたんですか、突然転んだりして。あのはしごがどうかしたんですか？」
「……………………オドロキくん。あれは、キャタツだよ。」
「あー、それ、みぬきちゃんにも言われたんですけど、別にいいかなって。どこが違うかもよくわからないし。似たようなもんじゃないですか。
　もっと本質を見ましょうよ、成歩堂さん。」
「……………………。（…ま、まさかオドロキくんがやってくれるとは……。みぬきの方は先に釘を刺しておいたってのに、いったい僕はどこまでこの手の話にツッコミを入れ続けなくちゃならないんだ……？）」（←頭抱え）
「いっそのこと、２つ合わせて『キャシゴ』って呼べばいいと思うんですけど。」
「………新しいね、それは。」
「だって、使う目的は同じじゃないですか。一本でも五本でも指は指だし、長かろうが短かろうが二つに割れていようが尻尾は尻尾でしょう？形が違うからって名前を変えたらわかりにくいと思うんですよ。」
「………いいかい、オドロキくん。はしごは立てかけないと使えないけど、キャタツは自らの力のみで立つことができてだな……。」
「えー？」
「（多分この子、いつか『だんろ』を『かまど』って呼ぶな……。）」




End



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　４作品＆７年の時を越えて今なお受け継がれ続ける誤解。なるほどくん頑張れ超頑張れ。