ネタバレの可能性もあるのでご注意を!







「机」






 なるほどくんが突き指した。
 ちなみに原因は、本棚から落っこちた六法全書を受け止めようとしたせい。


「困ったな・・・・・・・・明日は裁判なのに、これじゃ机が叩けない・・・・・・・・。」
「・・・・・・叩かなきゃいいんじゃない?ていうか、いつも叩きすぎなんだよ、なるほどくん。」
「そうなんだけど・・・・・・・・でもほら、迫力の問題とか色々あってさ。こう、バン!て叩くと、本気だぞ!って感じがするだろ?」
「よくわかんないけど・・・・・・。とにかく、あれじゃいつか机破壊しちゃうよ?裁判所の備品なんだし、もっと大切に扱ってあげないと。」
「・・・・・・・まあ、確かに色々苦労してるよね、机。弁護側の机はせいぜい叩かれる程度で済んでいるけど、検察側なんてムチで叩かれるわコーヒーがすべるわマグカップが振り下ろされるわ。」
「でしょ?だから、明日くらいは叩くの我慢してあげようよ。ね?」
「うーん・・・・・・・・・・。」







 翌日。
 なるほどくんは指に包帯を巻いて入廷した。
 相手はおなじみ御剣検事。今日の裁判はさぞかし彼一人が机を叩きまくるのだろうと思っていた。

 の、に。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・御剣・・・・・・・・・・・・・・・・お前、それ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 なるほどくんが、包帯つきの人差し指で御剣検事を指差す。
 正確には、御剣検事の包帯でぐるぐる巻きにされた両手を。

「・・・・昨日、糸鋸刑事が紅茶をひっくり返した。イギリス式にティーカップも温めていたのを知らずに触ったらしい。」

 淡々と言い放つ御剣検事。イトノコさんは大丈夫だったのだろうか。

「・・・・・・・ええっと・・・・・・・それ、お前が巻いたのか?」
「手当ては自力でやった。それが何か?」
「いや・・・・・・・・・。(相変わらず不器用なやつ・・・・・・・)」

 なるほどくん、心の声見えてる!

 ともあれ、平然としているように見える御剣検事だが、どことなく表情が暗い。
 やっぱり元無敗の検事としては、いつも完璧なコンディションで裁判に臨みたかったんだろう。

「・・・・・クッ・・・・これでは、机が叩けん・・・・・・・・。」


 あれ、そっちも?


「なるほどくん・・・・・・・どーすんの、この状況。」
「どうにもできないって。まあ、とりあえずこれで条件は同じになったし、迫力負けすることはないな。」
「そんな問題?」
「一応あいつが火傷で僕が突き指だから、怪我の具合としては勝ったと言えなくもないし。」
「いや、関係ないって。」


「それでは、これより裁判を始めます。」

 お決まりの台詞が法廷内に響く。あたしもなるほどくんも、一旦口を閉ざして次のお決まりを待つ。

 しかし。
 いくら待っても、あの『カン!』の音がしない。

 まさか、と思ってあたしたちは裁判長を見た。



 手元には、何もない。




「・・・・・・・・・・その、木槌を、家に忘れてきまして。」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」










 その日の裁判は、いまいち盛り上がりに欠ける静かで現実的なものとなった。











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