「えーっと、A型の男性は・・・・・あっ!ほらほらミヤギ君、リーダー肌で慎重派って出てるっちゃよ!」
「お!ホントだべ。うーん、なんかそういわれるとあと、こっちの前向きってトコも当たってるような気がするべなー。えーと、B型は・・・・・おおらかで明るい性格、だと。あはは、天気屋ってのもまさにトットリだべな。」
「えー、そうだっちゃかー?あ、でもほら!A型の男性が几帳面で理路整然としてるから、B型の男性とは互いに互いをおぎなうことが出来るってあるっちゃ!」
「おおー!まさにオラとトットリだべなー!」
「だっちゃねー♪」













「あのお人ら、自分たちに都合のいいところだけ拾い読みしとりますな・・・・・・・。」

 ため息交じりにアラシヤマが呟いたのを聞いて、一瞬ウマ子は身を硬くした。
 どうも彼の声は静かというより暗いというか、唐突に響いてくるため心臓に悪い。しかしいつも無口な彼が珍しくそちらから話しかけてきてくれたという喜びで、そんな考えは2秒で吹っ飛んだ。あわてて隣に座るアラシヤマにむかって言葉を返す。

「なッ・・・・・なにがじゃって?」
「あの二人どすわ。そりゃ占いっちゅうんは当たるも八卦、ええとこだけ信じたらええって言いますけど、あんだけポジティブに受け止めてるといっそ呆れを通り越して感心しますわ。そもそもA型とB型は普通相性が悪いんどすえ?」

 言われて、ウマ子はアラシヤマの視線の先を見る。確かにそこには、談話室のテーブルの上に何かの雑誌を広げて談笑する兄の同僚二人がいた。今は休憩中だそうだから別にサボっているわけではないのだろうが、先程デスクの上に溜まっていた紙の束から見ておそらく勤務時間中も仕事をしていないのだろう。
 聞こえてくる話し声からして、どうやら血液型占いの話をしているらしい。隣に自分の思い人がいるという緊張のせいで、今まで全く気付かなかった。

「ああ、そういえば・・・・・・・几帳面なA型と大ざっばなB型とはやり方があわんから喧嘩になりやすいって、よく言うのう。けど、いっぺん相手を受け入れることが出来ればベストパートナーになれるとも言うし・・・・。」
「ウマ子はん、詳しいんどすなぁ。やっぱりおなごっちゅうんは占いとか好きなもんなんやろか。」

 感心したように言うアラシヤマ。思わず顔を赤らめつつも、(こっ、これはもしや、血液型を訊くチャンス!)と内心ガッツポーズを決めるウマ子。
 血液型の話題といえば当然誕生日と星座と並ぶほどに定番の話題だ。しかもそこから性格の話や相性の話、結婚運についても話が発展しやすいし、運が良ければ『えーやだー相性最高ー!やっぱり私達結ばれる運命だったのねー!』と一気にラブ話に繋げることもできる。

「第一あの顔だけ阿呆が理路整然ってところで既にまるきり当たっとらんやないの。あの様子じゃ多分天気屋の意味も履き違えてるやろし。まぁ忍者はんがB型っちゅうんはなんとなく納得なんどすけど。自分勝手で一貫性がないトコとか、おだてに弱いトコとか。あとコージはんもいかにもっちゅうO型どすなぁ。豪快で親分肌といえば聞こえはええけど、要は強引で猪突猛進ちゅうか・・・・。」
「あああああああのっ!アラシヤマっ!」
「うん?なんどすの?」

 ほとんど独り言になりかけてたアラシヤマの言葉をさえぎり、乙女スイッチトップギアモードでウマ子は勢いよく尋ねた。

「あっ!アラシヤマはっ、その、血液型は、どれなんじゃ!?」






 突然暗雲が立ち込めた。室内なのに。




「ふふ・・・・・・ふふふ・・・・・・・・。」

 暗雲発信源のアラシヤマが根暗に笑う。何事か、とウマ子が尋ねる前に、彼のほうがどんより静かな声で言った。

「・・・・・・・・RH-AB型どす・・・・・・・。」
「え・・・・・。」
「ふふふ・・・・・・・・マイナーでっしゃろ・・・・?このマイナーな血のせいで、今までわてがどんだけ辛酸なめてきたか・・・・・性悪ドクターに散々採血されるわ、反対に任務先で輸血が必要になっても量が足りんで貧血のまま帰されるわ、相性占いの話題には入れんわ・・・・・・・・・・・。」
「・・・・それは、また・・・・・。」

 乙女スイッチ、強制オフ。
 どよよんと部屋に広がる重い空気に、流石の恋する最終乙女ウマ子も沈黙する。


「でっ、でもほら、RHならボンベイとかと違って、一応AB型に入るんじゃないんかのう?」
「わてもそうかとも思ってみたんやけど、やっぱ結局は違う血どすからなぁ・・・・。血液型占い読んでみても、微妙に当たらへんのどす。二重人格とか、夢想家とか、変人とか・・・・・。」



 当たってる当たってる当たりまくっている。
 とは思っても、ぐっとこらえて口には出さないウマ子。

 なんにしても、トラウマの多い彼に嫌な話題を降ってしまった。これではラブ話どころではない。
 多少テンションローになりながら、ウマ子はうつむいているアラシヤマに言った。


「その・・・・すまんのう。嫌なこと話させて。」
「ああ、いや、別にウマ子はんが謝ることあらへん。わてのこの忌まわしき血が悪いんやし。」
「いや、血液型如きで忌まわしきって・・・・・・。」
「それにまぁ、わてはもうええんどす。もう20年以上こないなこと考えとりますし、馴れてしもうたさかい。ただ・・・・・・わてはええんやけど。」
「・・・・?」

 首を傾げるウマ子に、アラシヤマは苦笑して答える。


「ほら、血液型って遺伝する言いますやろ?
 わてはええけど、将来もしわての子が同じ悩みを抱えることになったら嫌やなぁ・・・・と思うて。出来ることなら、相手の血のほうに似るとええんやけど。」














 わての子。

 将来。


 相手。






 (『将来』+『相手』)×『血液型』+『わ て の 子』





 =「俺の子を産んでくれ」



















 ぐらあり。




 脳内計算(という名の妄想)より得た核爆級の回答の衝撃によって、ウマ子の頭は一瞬にしてスパークした。

「ちょっ・・・・!?ウマ子はん!?どないしはったん急に倒れて!?」
「ああああアラシヤマぁッ!!!」

 助けおこそうとしたアラシヤマの胸倉引っつかんでウマ子の体がダルマのように起き上がる。そのままの勢いでぐわしぃっ!!と彼の両肩を握り締め、

「大丈夫じゃぁっ!!わしが必ず、アラッシーのためにも必ず元気で丈夫なO型の子を産んでやるけんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
「ほへ?な、なにが?あ、ウマ子はんO型なんどすか。知りまへんどしたわ。ああー、確かにO型の女性ちゅうたら一途なロマンチスト言いますもんなあ。」
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!アラッシィィィィィィっ!!」


 感極まりがっこんがっこんとアラシヤマの肩を揺さぶりまくるウマ子と、そのウマ子の豹変理由を全く理解せずに呑気に首を傾げるアラシヤマ。
 座っていたソファはひっくりかえり、轟音と大声に驚いたミヤギとトットリは何事かと雑誌を置いて集まってくる。運悪く同室にいた新米兵は、巨漢の化け物に幹部がシェイクされるその様子に恐れをなして逃げ出してしまっている。








 そして。

 その、どの角度から見ても色恋沙汰に見えない騒ぎを、かなり離れたところから観戦しつつ。





「・・・・・・・・・・アレをあと一体何年繰り返せば気がすむんだろうなぁ・・・・あの二人は。」
「なぁにシンちゃん、羨ましいのー?シンちゃんもいい加減コタローちゃんから弟離れして、早くお嫁さんもらえばいーのに。」
「一体お前はどんな材料から俺が羨ましがっているなんていう結論に達したんだえぇオイ?俺はただあの人外&引きこもりコンビがいい加減ガンマ団で毎度毎度騒ぎ起こすのを止めて、どっか遠くの俺と全く関係ない別次元とかでラブコメもどきでも何でもやっててくれねぇもんかとそう悩んでいるだけなんだが。」
「照れなくってもいいのにー。うちの一族でお嫁さんもらった人なんてほとんどいないから、きっと結婚式とかしたらオジサマたちもみんな来て楽しいよー?一族総出でお祝いしてさ。まあシンちゃんが結婚したら絶対おとーさまは泣くだろうけど。僕ね、ライスシャワー装置作ってあげるよ。結納代わりに。」
「そうかグンマ、お前も人外だから人間の言葉が通じないのな。」
「シンタローはB型だったな。B型の男性はドラマチックな恋愛を求めるが女性への思いに一貫性がなく、浮気っぽいと思われがちだそうだ。家庭に入っても行動パターンは変わらないが、仕事のストレスなどを家に持ち込んで不仲になるパターンも多いらしい。」
「うんちく垂れてるところ悪いが、お前もグンマも同じB型だってわかってんだろうな?キンタロー。」















 人間の言葉の通じない兄弟及び従兄弟に挟まれ、眼前の阿鼻叫喚ラブコメを眺めながら。


 ガンマ団現総帥殿は、なんかもう立場も何もかも捨ててもう一度あの南国に帰れぬものかと、本日何度目かのため息をついたのだった。











End







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大体こんな騒ぎを10年間ずっと続けてくれてればいい。

多分これも、島から帰って既に2、3年たってる頃だと思う。もう皆さん色々と慣れっこ。ガンマ団も心戦組も大体公認なんだけどアラだけは全く全然気付いてない。もおワザとじゃないかってくらいの鈍感さん。

ちなみに、アラシヤマああ言ってますが占い詳しすぎ。多分話題にも入れないのにすごい性格占いとか熟知してそう。
キンタローは単なる知識として知っている感じ。ベスフレやグンちゃんは、好きだけど本読んで騒いだ30秒後には大体内容忘れてると思う。



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