毒女に捧げる15のお題
1.赤 (渋谷有利)
初めて彼女と出逢ったとき、目の前で炎が燃えているものだとばかり思った。
実際それは彼女の美しい赤毛だったのだが、その第一印象があまりに強かったため、今でも俺はアニシナさんを炎の女と思っている。
因みにそれを聞いたグウェンダルは『炎なんてなまやさしいものか。』なんて言っていた。でも俺には、アニシナさんはそこまで怖い人には見えない。
確かに炎は熱いし、火傷もする。けど、人類だって炎を持ったところから猿と決別したわけだし。いわば炎とは文明の象徴といってもいいのかもしれない。常に『文化の発展』を目標としているアニシナさんにはぴったりだと思うんだけど。
まあ、グウェンダルの主張も一部正しいのだろう。赤は危険だ。信号の『トマレ』も赤だし、血は真っ赤な色してるし、赤いバラにはトゲがある。いや黄色いバラにもトゲはあるけど。
そうはいっても、赤のアニシナさん自体がそんなに危険には見えない。それが俺の意見だ。
意見だ。
意見だったら意見だ。
「・・・・で?」
「ハイ、危険でした。」
「・・・・最初の私の問いに答えてもらおう。その手足の包帯は何だ。」
「えーっと、アニシナさんに身長の伸びる機械ってのを見せてもらって、『よろしければお試ししますか?』なんていわれて、ついふらふらと頷いて、気が付いたときには両手両足に枷がついてて・・・・。」
「・・・・ユーリ。」
「ナンデスカ、グウェンダルさん。」
「自業自得という言葉を知っているか?」
「・・・・うい。」
完
2.餌食 (ウェラー卿コンラート)
アニシナが目指しているのはマッド・マジカリストだ。よって実験には常に魔力が必要になる。
そういうことを考えると、自分に魔力がなくて本当によかったと思えた。
現に魔力が高いグウェンダルとギュンターは常に実験台(彼女はもにたあと呼んでいるらしい)にされているし、最近ではヴォルフラムまで狙われがちだそうだ。
ジュリアが生きていた頃はアニシナのことを『自分のやりたい事を明確に持っていて、とてもそのことに熱心な人』と教えてくれたけど、グウェンダルが泣きながら逃げているのを見たときに全ての真実を知った。
ともあれ、グウェンダルには可哀想だが彼女が狙っているのは魔力の高い者のみ。よって自分に被害が及ぶ事はない。餌食はグウェンダルとギュンターで十分だ。
そう、考えていたのだが。
(どうしてこんな事になるんだろう・・・・?)
一言で言えば、それは油断と不運のせいだろう。
ちょうどアニシナが、魔力のない者でも効く薬品の調合に成功して、ちょうどそのときギュンターは出かけていて、グウェンダルは3日ほど徹夜したあとの久しぶりの睡眠中で。
止む終えず獲物を探して巣穴(実験室)から出てきたアニシナと、ちょうどそこを通りかかった俺とが鉢合わせして。
で。
「さあどうしたのですかウェラー卿!男らしくグイッと一気に飲むのです!さあさあ!」
今俺は毒女を前にして、手には毒らしきもの(本人は万能薬と言い張っている)の小瓶を持って、アニシナが辺りに発散する毒霧(幻覚です。単なるオーラです。)と戦って。
(ああ、俺なんかがアニシナの餌食になるなんて・・・)
ヨザックが見たら『うらやましい』などと言うのだろう。今になってグウェンダルの『出来る事なら代わってやりたい』が理解できた。
「ええい、何をしているのですかウェラー卿!全く兄が兄なら弟も弟ですね!」
アニシナはアニシナでなかなかひどいことを言っているし。
今は早朝。陛下を起こしに行く時間にも早いし、『もう眠らないと』と言い訳できる時間は過ぎている。こんな時間はたとえ仕事のある兵士でも起きてこないし、徹夜で見張りをやっていた者もそろそろ部屋へ戻っていく。
これらの事実を総合すると。
俺は逃げられないという事だ。
完
3.編み物 (フォンビーレフェルト卿ヴォルフラム)
僕は兄上が作るあみぐるみが好きだ。
周りの者が不器用といっても、僕はそうは思わない。あんなに本物そっくりだというのに、なぜ皆下手だというのだろうか。
・・・まあ確かに最近は狸や凶暴兎の製作が多いが、僕が幼かった頃はたくさんくまさんやうさたんを作ってくれたものだ。つぶらなビーズの瞳も、繊細な編み目も、僕は大好きだった。大切にしていたのにいつの間にかみな無くなってしまったが。
とにかく、兄上のあみぐるみは素晴らしい。僕はそう思う。
思う。
思うったら思う。
・・・・思うけど・・・。
アニシナの部屋へ初めて踏み入れて、ちょっと思いが揺らいだ。
上手い。
とても上手い。
部屋においてあるアニシナ製作のあみぐるみが、今の兄上を凌駕するほどに上手い。
「・・・うわ・・・・。」
思わず声をあげるほどに上手い。これでもしもここにあるのが骨飛族人形やブブブンゼミ人形じゃなければ、思いっきりアニシナを絶賛していただろう。
いや、それでも昔の兄上のあみぐるみだって可愛かった。疑いようのない事実だ。僕は今でも兄上の作ってくれたくまさんのつぶらな瞳を覚えている。
「どうしましたヴォルフラム?グレタの作った陛下人形はこちらですけど。」
そうだった。僕は愛娘の作ったユーリ人形を見ようと思ってここへ来たんだった。断じて兄上への信頼を揺らがせるためではない。
「ほう、上手だな。さすが僕の娘だ。」
「あなたの娘である事が何か関係するとは思いませんが、グレタは筋がいいですよ。教えたこともすぐ飲み込みますし。グウェンダルとは違いますね。」
「・・・・・・・・・。」
忘れていた。兄上はアニシナに編み物を習ったんだった。まあ、そう考えれば兄上よりアニシナのほうがうまいことも納得がいくが・・・・。
一瞬兄上への信頼がまた揺らぎそうになり、あわてて頭を振る。と、そのとき視界の端に他のあみぐるみが・・・・。
「っあーーーーーっ!?」
「なんですかいきなり大きな声を出して。」
アニシナの声も聞かずに僕はあわててそのあみぐるみに駆け寄る。繊細な編み目、整ったかたち、そしてつぶらなビーズの目・・・。
間違いなく、昔僕が持っていたあみぐるみだった。
これがなぜここにあるのか。もしや兄上は僕が興味をなくしたからといってアニシナに贈ったのだろうか。いやそんな馬鹿な、いくら兄上でもそんなことしないと思うし、アニシナがそんなお下がり的な物受け取るとも思えない。
では、何故・・・?
「おや、それが気に入ったのですか?ずいぶん昔のものですから擦り切れてますよ?」
「こ・・・これをどうしたんだ?」
「は?わたくしの部屋にあるのだから、わたくしが作ったに決まっているでしょう。」
なんだって!?
「ほ、本当か!?」
「こんな事で嘘をついてどうしろというのですか?ああ、そういえばこれは確か一時期グウェンダルが借りていったことがありましたね。数年してから返されましたが。一体何に使ったのやら・・・・。」
今度こそ。
僕の兄上に対する信頼は、綺麗に崩れ去った。
完
4.筆跡 (ゲーゲンヒューバー)
「ヒューブ・・・これ、貴方に届いた手紙なんだけど・・・。」
剣の稽古から戻ると、愛しい妻が泣きそうな顔をして佇んでいた。
もしや脅迫状か!?と思い、あわてて受け取ると、その紙にはなにかの模様が並んでいた。
「・・・?これは・・・?」
「手紙。」
「・・・てがみ?」
ちょっと信じられない。
だが、差出人がどうにか『カーベルニコフ』と『アニシナ』と解読できたことで納得した。あの一族はどうも筆跡が独特らしい。特にアニシナの文字は強烈な悪筆で、解読できるのは幼馴染のグウェンダルぐらいなものらしい。
幼い頃から文字を学んでいた自分にはちょっと信じられない事だ。
「ねぇ、ヒューブ?読める?」
ニコラが聞いてくるが、どうにもならない。公式文書と照らし合わせてどうにか差出人は判明したものの、他の部分、特に本文が全く理解できない。
「・・・仕方ない。フォンカーベルニコフ卿に返事を書こう。」
「ああ、なるほど!『読めませんでした』って書いてもう一度書き直してもらうのね?」
さすがにそんな失礼な事を書いたりはしないが。
「とりあえず、私が返事を書いておこう。だからもう心配要らないよ。」
「ああ、ありがとうヒューブ!最初その手紙が来たときにはもうどうしようかと・・・。」
喜ぶニコラを見送ってから、私はとりあえず封筒を取り出した。
数日後。
「グウェンダル、これ読めません。」
「むう・・・・。」
そんなこと自分に言われても、と反論したいが、どうにもならないのでとりあえず黙っておく。
幼馴染であるアニシナが一通の手紙を持ってやってきた。筆跡からしてこれはゲーゲンヒューバーだろうと見当をつけるところまではいったのだが、内容が全くわからないのだ。
ゲーゲンヒューバーはアニシナとおなじぐらい筆跡が独特だ。だが決して悪筆なわけではない。幼い頃から文字の勉強をして、人間の文字すら魔笛探索の旅の間に学び、結果。
あまりに達筆すぎて誰にも読めなくなってしまった、というわけだ。
今のところ解読できるのは妻であるニコラだけらしい。
「まったく!読めない手紙を送ってきてどうすると言うんですかあの男は!この前送った手紙の返事かと思ったら!」
とりあえず読めない文字においてアニシナの右に出るものはいないと思っていたのだが、まさかこんな身近にいたとは。
「とりあえず返事を送れ。読めなかったと言う事を伝えて、もう一度書き直してもらうんだ。」
「ま、それが一番妥当な方法ですね。」
そういって出て行くアニシナを見ながら、なぜか私の頭の中では『いたちごっこ』という単語が回っていた・・・。
♪赤やぎさんからお手紙ついた 灰やぎさんたら読めずに困った
仕方がないからお手紙書いた さっきの手紙の本文なあに?♪
ああ、『いたちごっこ』・・・
完
5.人体模型 (フォングランツ・アーダルベルト)
一言先に言わせてもらうと、俺は別に毒女が格別怖いとかそういうことはない。今のところ被害にあったことは無いし、普通程度の魔力を狙われるわけでもない。
だがやはり、皆が雷を見るとつむじを抑えるように(雷の精霊はつむじが好物、という迷信があるのだ)俺とてまあ人並みに、関わり合いたくないなぁくらいには考えているのだ。なんと言っても天災以外の何者でもないし、できることなら目を付けられないように話しかけられないように、と思っているぐらいには、アニシナのことを敬遠していた。
だというのに、今俺は真夜中のカーベルニコフ城の廊下を歩いていたりする。
自身の名誉の為に言うと、俺がここに来た理由は当然自由意志でもなければ気が狂ったわけでもないし、脅迫でもない。
本当なら俺だってこんなところ来たくもなかった。なかったのだが・・・・・・・・。
『アーダルベルト?あのね、アニシナが、是非ともあなたに見せたい物があるんですって。今夜カーベルニコフ城に来て欲しいって、手紙が来たの。素敵ねぇ。』
これがもし他の者が言ったのであれば皮肉としか聞こえないが、彼女は本気でこう言ってるのである。
何故かは全くわからないが、俺の婚約者ジュリアは毒女アニシナと無二の友人だ。そのジュリアが、見えないはずの目で俺を見つめ、ニッコリと微笑を浮べてこう言ったら、俺としてはもう『わかった、必ず行く』としか答えられない。誰だ今『尻に敷かれてる』とか言ったやつは。
本当ならば夜に来るのだって遠慮したかったのだが、『今夜』と指定がつけられてしまっていた為、逃れる術はまるでなかった。というかウィンコット城からカーベルニコフ城までどれだけあると思っているんだあの女は。俺の馬が有能だったから真夜中についたものの、普通ならば明日の昼になっているところだ。
静かすぎる夜の廊下は、もちろん誰も歩いていない。最後に生き物を見たのは門番に挨拶した時だ。真夜中なのだから人がいないのは当然なのだが、まるで城内全員留守・・・・・いや、むしろ毒女の瘴気にあてられて全滅・・・・・。
よそう。こんな事考えていると回れ右して帰って酒かっくらって寝てしまいたくなる。
ふと、耳を澄ます。風の音しか聞こえなかったはずのこの空間に、ギシギシといやな音が遠くから響いてくる。
俺は静かに指先で剣の柄に触れた。あの音が単に風が窓を押していたり、誰かが立てつけの悪い扉を開けている音では無いと直感的に思ったのだ。しかもそのギシギシ音は少しずつ近付いてくる。俺は警戒したまま、そっとその方向へ歩き出した。
月が隠れてしまい、あたりが暗い。条件は向こうも同じといえ、灯りを持ってこなかったことを俺は少し後悔した。音はやはり近付いてくる。ギシ、ギシ、という音はまるで足音のようにも聞こえるが、途中でキュラキュラとかギリギリとかいう音までする。果たしてこれは人間(魔族)の出せる音だろうか?
暗闇の中に影が見えた。
一瞬剣を抜きかけ、影の形からそれが自分の影だとわかってため息をついた。少々、気を張りすぎたか。
だが、音は確実にその影から聞こえてきた。
「っ・・・・・!?」
一歩後ずさる。俺の形をした影はやはりギシギシと音を立てて近付いてくる。暗すぎてその姿は見えない。わかるのは、俺とよく似た姿をしているということと、生物の気配がないということ。
つまり、生きている者ではないという事。
ギシギシ音が急に止まった。
俺のほぼ目の前に、俺と同じ形の影が立っている。
ふいに雲が切れ、月が辺りを照らした。
目の前に立っていたのは、やはり俺・・・・・但し、服も着ておらず、表情も張り付かせていない、それどころか体の右半分の皮を剥がされ筋肉がむき出しになっている俺・・・・・!
月明かりは、あまりにはっきりとそのおぞましい姿を映し出していた。
その晩悲鳴を上げながら逃げ出して馬を走らせ城に戻って酒かっくらって寝た俺を、誰も臆病者とは責めないだろう。
結局あれから今に至るまで一度もカーベルニコフ城へは行っていない。だが、その幽霊モドキの正体は、意外と早くわかった。
なぜならその一週間後、フォンカーベルニコフ卿アニシナ作成『動く!まちょ体模型』(銀貨50枚)が発売され、しかもそれをジュリアが嬉々として買ってきたからだ。
完
6.魔動 (村田健)
(注意!マニメ「ウィンコットの遺産」のネタバレ含みます)
「それにしても返す返すも残念なのは、陛下があの魔動装置『ダイケンジャー・初号機』を完全に破壊してしまったという事です。
もちろんあの時はグレタとリンジーの安全が最優先、またあのような攻撃性が高く巨大で管理に困るものをこれから先も保存、封印するという選択肢は多少難しかったかもしれません。しかし、眞王陛下のおられた眞魔国創立時代に作られた魔動装置といえば、歴史的に見ても芸術面からしてもとにかくあらゆる観点において貴重極まりないものであったでしょうし、そこから得られる技術や知識もおそらく膨大なものであったのではと思われます。
最終的に粉砕するという選択が必要であるとしても、せめて一旦機能を停止する程度の攻撃にとどめておいて後日この私が徹底的に分析、実験、研究をしてから破壊するという手もあったでしょうに、残念でなりません。
更に眞魔国は今回の事件で、初代十貴族が我々のために残してくれた遺産を失ってしまったという事にもなるのです。
初代フォンウィンコット卿がこの国を守るためにと製作し、今まで地下にて眞魔国のことを見守り続けていたあの誇り高き魔動装置を、私達は果たして失ったままその存在を過去の歴史として埋もれさせてしまってよいのでしょうか?否!私達は去ってしまったものの意志を引き継ぎ、更にその先へと進めていかなければなりません!
なにより、【初号機】とあるからには当然それに続く存在が必要不可欠というもの!
という訳でっ!ちゃっちゃらっちゃっちゃーん!こちらがこの私フォンカーベルニコフ卿アニシナの大発明、先代と比較して大幅な小型化と操作の簡略化、なおかつ今回使用いたしました光線砲まで装備させてまさに完全進化を遂げた『ダイケンジャー・弐号機』でございます!!」
「・・・・・・・・・・質問よろしいでしょうか、アニシナ先生。」
「なんでございましょう、猊下。」
「・・・・・・その弐号機の、眼鏡と、頭のはねっ毛は、一体。」
「それは勿論、ダイケンジャーという名称に恥じることなく、猊下のお姿を元に。」
「・・・・・・アニシナさん、これはやはり今ちゃっちゃと破壊してしまった方が・・・・・・。」
「なんですと?」
「や、その、だからあのえっと・・・・・・・・厳重に、封印すべきかな、なんて・・・・・・。」
数千年後。
まさか子孫達が今回と全く同じ騒動を引き起こすとは、この時誰一人として予期していなかった。
完
7.骨
8.辞書
9.アニシナちゃん
10.緊急事態
11.指
12.女は○○あれ(○○は自由に語を挿入。例えば『女は優しくあれ』等)
13.笑い声
14.へる
15.永遠の被害者(『もにたあ』でも可))
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やはりアニシナ嬢至上主義を自称するからにはこれぐらいやらねば、という感じで開始したお題です。ただこれまるマページに入れるかお題ページに入れるかかなり悩みました・・・。
アニシナ様と誰か、という形で進めるつもりですが、決してカプ意識ではありません。いや、グウェンやヨザはもしかしたら例外になるかもですが。
でもやっぱり、アニシナ様に総受けは似合わない。
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