4 ミッション:校長のヅラをゲットせよ


 噂によると、校長は実はカツラらしい。

「・・・って、俺校長先生の顔覚えてないんだけど・・・」
「うーん、実は僕もそうなんだよね。印象薄いのかなぁ。」
「終業式や始業式のときには、確かに話していたはずなのにな。」

 なんと、俺も村田もヴォルフも、誰一人校長の事を覚えていないとは!

「あ、でもさ、教頭はフォンヴォウテール先生がやっているらしいよ?」
「兄上がヅラなものか!」

 そりゃそうです。

「まあとりあえず、校長室で座ってるのが校長でしょう。ちょっとヅラ確かめに行こう。」
「おお・・・って村田君!?何さらりと凄いこと言ってくれてんの!?」
「ええー?いいじゃん別に。行こうよちょっと。」
「駄目駄目!成績いいお前と違って俺は内申点稼がなきゃ進級できないんだぞ!?」
「渋谷・・・それでいいのかい?成績ばっかり気にしていて、一度きりしかない高校生活を青春して過ごそうとは思わないのかい!?」
「いやあの・・・校長のヅラ取るのが青春?」
「行こうよー、ねー!僕一人じゃ寂しいじゃないかー!」
「本音はそれかー!」





 結局村田に言いくるめられてしまった。


「どんな風に言いくるめられちゃったんだよ、俺・・・。」

 情けなさで涙が出てくる。

「しー、とりあえず真っ向勝負でいくよ。いきなり校長室乱入ね。」
「せめて作戦とかは!?」

 えーい、こうなりゃやけっぱちだ。進級なんかしなくても生きていける!

「とりゃー!」

 村田と一緒に校長室乱入。

 扉を開けて、一番最初に見えたのは壁に飾ってある額縁だった。
 どうにか視線をずらすと、椅子に座っている中年の男が見える。気の弱そうな顔が驚いてこっちを見ている。髪はあるが、いかにも色があってない。ヅラとカミングアウトしているようなもんだ。

「もらったー!」

 村田が叫び、一気に髪の毛を剥ぎ取った!ああ、神様仏様ゴメンナサイ!お袋、高校まで進学させてくれてありがとう!

 村田によって吹っ飛ばされた髪の毛(やっぱりヅラ)は軽やかに宙を舞う。そして中年男はオレたちを見て・・・・

「あぁぁぁぁぁっ!」

 叫んだのは、村田だった。いや、実際俺も叫びたかった。なんと校長の顔は、俺の知っているものだった。さらに厳密に言うと、それは校長ではなかった。

 事務員のダカスコスさんだったのだ。

「はっはぁ!引っ掛かったな生徒たち!」
「その声は・・・やはりお前かダカスコス!」

 村田、それ何の漫画?っつーかダカスコスさんも乗るなよ。

「ふっ、事務員をお前呼ばわりするとは、内申がどうなってもいいのか!」
「うるさい!そんな事より何故ダカスコスが校長のふりを!?」
「あ、ひょっとして事務のほうがカモフラージュで、本当に校長だったとか?」

 俺が聞くと、

「いや、俺は普通に本業で事務員です。」
「なんだよそれ!そんな面白みのない人生でいいと思っているの!?」
「人の人生否定しないでください!」
「で、結局なんで事務員のダカスコスさんが校長室でヅラかぶってんの?いつもは普通にハゲ型じゃん。」
「ふっふっふ・・・知りたければ教えてやろう!」

 あ、またどっかの悪役風味。

 ダカスコスさんはマントでもひるがえしそうな勢いで、

「実はここ最近校長ヅラ説が生徒に広がっているとの情報が職員に流れ、急遽対策が打たれたのだ。すなわち、校長のズラを取られないためにはどうするか!」
「いやあの、そんなことしなくても今ここでヅラって叫んでる辺りもう駄目じゃ・・・。」
「何しろ校長はある特殊な地方の生まれで、その地方ではヅラを取られるのは死にも値するような行為!あのような人格者である校長を殉職させるものかと、職員たちは知恵を絞って対策を練った。すなわち、身代わり!」
「ってちょっと待った!んな風習があるのか!?そんな、死に直結するなんて聞いたら俺ら別にヅラ取ろうなんて・・・。」
「そこまで聞いてしまったからには・・・是が非でもヅラを取るしかないね・・・。」
「だから何でだよ村田!」
「そう、貴様のような生徒が出てくることを恐れ、校長の地方の風習は公表できなかった。そこで!常にオープンハゲの俺が身代わりに選ばれ、こうして日がな校長室で日向ぼっこする事になったのだぁ!
 ・・・と、いうわけです。」
「ひょっとしてダカスコスさん、その口調で事情説明する事を義務づけられてたね?」
「ええ、実は。」

 なるほど。いろいろ疑問は残るが大体の事情はわかった。しかし、それじゃ本物の校長はいずこに?



 数日後、避難訓練があった。避難し終えた生徒一同に校長のお話が入る事になり、とたんに村田の目が輝く。
「いいかい渋谷、今度こそづラを確保するよ。」
「だーかーらー!なんかヅラ取ったら死ぬから取るなってダカスコスさんも言ってたろーが!どうしてお前はそこまでヅラに執着するんだよ!」
「何を言う渋谷!たとえ動機がなんであろうと、一度言い出したらとにかく何が何でも実行するのが、今時の高校生、男ってものだろう!?」
「知らないってそんな高校生!」
「とにかく僕は君を引きずってでもやるからね。どうせ渋谷だって共犯だし。」
「俺既に共犯扱い!?」

 必死にひそひそ村田を説得していると、

「それでは、校長先生からのお話です。」

 というグウェンダルの声。
 駄目だ、グウェンダル!!急いで校長を逃がすんだ!さもないと村田が校長を殺そうとしているんだぞ!?
 俺の祈りもむなしく、カン、カン・・と壇上に人が上り・・・・。




 ペカッ

「皆さん、おはようございます。」

 壇上に上ったヒスクライフ校長先生(今名前思い出せたよ)が、自らヅラを取った。






「これじゃ取れないな・・・。」
「・・・・取れないねぇ・・。」

 俺と村田、高校生の爽やかな会話。






 後日、掃除中のダカスコスさんに問い詰めてみたところ、ヒスクライフ校長先生の生まれ故郷では、他人にヅラをとられるのは屈辱とされているが、挨拶の時には自分でヅラを取るらしい。
 さらに、俺や村田、ヴォルフラム以外の一般生徒は皆ヒスクライフ校長先生のことを覚えていて、『あんな印象的な先生の事どうしたら忘れられるんだ』といわれてしまった。
 村田君の推理では、どうやら俺も村田もヴォルフも始業式では背の順で並んでいるのをいいことに喋りまくっていたから、カケラも印象に残っていないんだろうとされた。
 かくて、校長の命は守られたのだった。







 教訓。人の話は真面目に聞きましょう。






おわり

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