3 授業一時間中、空気椅子耐久レース
思うに、こういうよく分からんことを思いつくのはたいてい村田だ。
過去の事例でいえば、『教室の扉に黒板消しじゃなくてチョークを仕掛けておこう(刺さるって)』とか、『授業中、なにか質問をされた瞬間全員が手を上げたらどうなるかな(先生困ってたじゃねぇか)』などがある。
だが、今回この企画を考えついたのは、実を言うと俺だった。やっぱり昨日大リーグ選手の半生を描いた番組を見たのがいけなかった。
『なあ、筋トレって言ったらやっぱ空気椅子だよな。みんなでやんねーか?』
『えー?やだよそんなの。しんどいし。』
『いーじゃねーか。あ、そーだ!授業中一時間クラスで耐久勝負ってどーよ?』
まさかあそこでヴォルフが乗ってくるとは思わなかった。
『フン、ユーリごときがこの僕に勝てるとでも思うのか?』
それを聞きつけたクラスメイトたちが、
『なーに言ってる!やっぱラグビー部エースの俺がいけるだろやっぱ!』
『お前体力あっても膝の力ねーだろ!ここは男の中の男、サッカー部一年部長の俺が・・・。』
『ちょっと、「男の中の男」って、女子のこと無視する気!?やっぱり女子のほうが男子より我慢強いんだから。』
などと皆さん張り合い始めて・・・・。
で、今に至る。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
クラス中完全に無音。いつものおしゃべりも完全に忘れ去られたように、ただひたすら先生の声だけが淡々と響く。
いつもなら居眠り番長の名を欲しいままにしている奴すら、真剣な顔をして黒板をにらみつけている。
糸のように、否、針金のようにピンと静まり返った異様な雰囲気が、教室中を満たしていた。
かく言う俺の膝もそろそろ限界だ。だが授業は後10分残されている。
男子も女子もひたすら真剣で、ヴォルフや、最初渋っていた村田すら膝を震えさせている。
こっそりリタイアして座ってしまう奴が出てくるかもしれないと考え、みんな自分の椅子を他の教室においてきたのだが、まずこれがいけなかった。
もしもこの体制に耐え切れなくなってしまった場合、その生徒は無様にしりもちをつくことになる。それは自らの面子がつぶれると同時に、今授業をしている先生にもこの耐久レースがばれるという事だ。
これがせめて、冗談の理解できるコンラッド先生や純真ギュンター先生だったらまだよかったかもしれない。
現在、理科。
教師、アニシナ先生。
もしばれたりしようものなら。
(殺される・・・・)
皆、自分の面子と、そして命のために今を戦っている。
そう、これは戦争なのだ。
もう、どれくらい時間が経過したのだろう・・・。
もはや永遠とも思える授業。一秒が一日にも感じるとは、まさにこのことなのだろう。
そして・・・・・。
キーンコーンカーンコーン・・・・
(!)
終わった。
この地獄が、今まさに終わった。
「おや、終了ですか。それでは仕方がありません。続きはまた来週ですね。」
もはやそんな事誰も聞いていない。この授業はきっと誰もノートすら書いていないだろう。またしても語り継がれるに違いない・・・『空気椅子で一時間事件』とか。
「それでは皆さん、起立!」
アニシナ先生の声がまるで天使に聞こえる。そんな中で俺は立ち上がろうと・・・・
立ち上がれなかった。
「?どうかしましたか?」
アニシナ先生が不思議そうな顔をする。何せ、生徒全員がまったく立ち上がらないのだから。
立てない。
全然立てない。
まるっきり立てない。
他の奴らも皆顔が青ざめていた。要するに、膝がこの状態で固まってしまっている。力を抜けばどうにかこの体制は崩れるだろうが、それではやはりしりもちをつく。ばれてしまう!
数秒の沈黙の後・・・・
ああ、とアニシナ先生が笑った。
「なんですか皆さん。やはりここではまだ区切りが悪いと思いますか。そうですね。皆さんがそこまで授業を受けたいと望むのでしたら、あと5分か10分ぐらい延長して区切りがつくまでやりましょう!」
なんだって、おい!
「あの、せんせ・・・。」
「いやまったく、今日の皆さんは本当に勤勉で熱心な事ですね。いつもは騒がしく愚かにも私の授業を聞かなかったりするというのに、今日は静かであるどころか延長を望むなんて!いつもこうであれば一体どんなによい事でしょう!それでは授業を続けます!」
話を聞いてくれ!
だが、皆わかっていた。アニシナ先生はこの学園で最も、人の話を聞かないことで有名だという事を・・・・・。
こうして、悪夢のような授業は10分延長された。
end
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アニシナ教師登場。うーん、白衣姿で授業をする姿が見てみたい!誰か描いて下さい(人任せかよ)。
きっと理科部の顧問とかやってたのでしょう。そんで怪しかったりキケンだったりする実験ばっかりやって部員が減って遂に廃部になって、もはや理科室はアニシナ先生の根城と化している。
何て素敵な学園生活(オイ)。
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