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 キーボードを打ち込む手が、止まる。
 何か今、大切なものを失った気がして。









 こんな事をしている場合じゃない。
 今この基地は危機に陥っており、何者かが自分の作ったシステムを破壊し、自分のプライドを傷つけた。これだけで今自分のしなければならない事は確定する。

 今もラボの中に、ソイツの癇に障る笑い声が響き続けている。
 早くあの笑い声を止めてやりたい。そのためには、今すぐにでもこのプログラムを完成させなければならない。

 わかっているのに。
 何故、手が動かない?

 クルルの手は、先程まで猛スピードで動いていたのが嘘のように、凍りついたかのように動かない。
 イライラして、どうにか手を動かそうとするが、脳髄を走る違和感がそれを阻止している。
 手が震える。それが余計にイライラを強める。

 嫌な予感?虫の知らせ?
 これ以上何が悪くなるというのだ。



 既に小隊は壊滅的な打撃を受けている。無事なのは自分や隊長、モアばかりとなり、日向家の者だってどうなるか分からない。ギロロ伍長やタママ二等兵の反応はとっくの昔に消えている。ドロロ兵長もどこに行ったかわからない。小雪、桃華などの奴等ももう・・・・・。






 そこまで考えて、やっと気付く。

 違和感の正体。この『嫌な予感』の理由。
 この自分が認めてやった、マブダチの存在。





 アイツはどうしたんだ?














 気付いた瞬間、それまでラボに響いていた笑い声すら聞こえなくなる。
 どうやら手だけではなく耳すらも凍りついたようだ。

 怒りで沸騰しかけていた頭が、急速に冷えてゆく。
 何故、忘れていた。そんなにも、冷静さを欠いていたというのか。
 それとも、あまりにも離れすぎたか。



『ププププププ〜ッ!たぁく、だっせぇノ!口ほどにもないヨネホント!』

 先ほどまで神経を逆なでし続けていた声すら、今はもうほとんど聞こえない。
 サブローは、一体どこへ行った?

 この状態で、考えられる事は一つ。


『ププププププ〜ッ!プププププププ〜ッ!!』

 笑い続ける、声。

 怒りが、憤りが浮かんでくる。しかしそれはこの笑い声の主に対してではなく、自分に向かって。

 何故、気付かなかった。
 何故、忘れていた。
 この事件が起きてから、小隊の奴等はみな己の側にいるペコポン人のことばかり考えていた。
 ギロロは夏美のためにあっという間に出て行って、今もう反応が無い。タママも、桃華とほぼ同じ頃に反応が消えた。ドロロ兵長は現在音沙汰ないが、人一倍義理堅い彼が小雪のことを忘れるわけがない。ケロロは、先ほどから上で日向家のものを避難させようと必死だ。

 自分だけが。

 アイツの事を、考えていなかった?











 アイツとの、微妙な距離が好きだった。
 お互いの領域に決して踏み込まず、お互いをよく知っていながら干渉しない。
 それが俺にとってもベストであり、またアイツにとってもそうだったはずだ。
 けど、今回ばかりはその距離が裏目に出た。

 俺が気付かなかったせいで、アイツは消えた。

 おれのせいで。














「・・・・・・・クッ。」


 舌打ちして、クルルはようやく動くようになり始めた手を操り、作業を再開する。だいぶ遅れをとったが、天才の自分ならまだ大丈夫だろう。
 今、こんなところで固まっていても、何にもならない。
 それをわかっているから。
 割り切っているから。

 今、動かなければならない。
 例え、俺のせいだとしても。






 なあ、サブロー?


 クルルは画面を見たまま、どこかにいるサブローに向かって呼びかける。


 俺らはマブダチだ。
 だから、俺はお前のことならなんだって知ってる。
 お前がこんなところでやられるような奴じゃないって事も。
 お前が『消滅』なんてダサいことするわけないって事も。

 ちゃんと、わかっている。
 ちゃんと、信じてやる。


 だから、早く戻ってこいよ。
 俺に借りを作ると厄介だって事ぐらい知ってるだろ?
 だったら、ちゃんと帰ってこいよ。



 信じてやるから。
 だから、早く。









 動くようになってからも、手の震えはなかなか止まらなかった。









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 サブロー先輩が消えた時クルルに何の反応もなかったのが悔しくて、ここまで後悔させてみました。
 他の人たちは一緒に暮らしてるのに、クルルだけラボ生活ですからね。離れているせいでサブロー先輩出番の方までレギュラーから離れちゃって。哀れ極まりない。
 口じゃ色々言ってるけどなんだかんだ言って自分の認めた奴を大切に思うクルルが好きです。小隊の仲間とかもね。



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