G66




 落ちる。
 落ちてゆく。

 こんな状態でも、脳裏に見えるのは彼女の笑顔だけ。









 飛行ユニットを失ったギロロの身体は、重力に逆らえずただ落下し続ける。その間に、自分を狙撃して空中に制止し続ける兄の姿が、視界に入った。

 無表情に、いっそ哀れむように、落ちゆく自分を眺める兄の姿。


 ガルルは、この後逃げた夏美たちを追うだろうか。
 いや、先に地下秘密基地のケロロの方へ向かうはずだ。夏美たちのことは部下に任せるなどの対処が出来るが、ケロボールはガルル自らが行かなければならない。
 それでも、恐らくガルルたちは夏美たちをこのまま見逃すつもりは無いだろう。



 そう考えていても、ガルルに対して怒りは湧き起こらなかった。

 今ガルルがしていることは、軍人として当然のことなのだ。敵に対して一切の情を捨て、躊躇いも無く抹殺する。そうでなければ自分達がやられるのだ。
 今のガルルは、軍人として正常だ。

 異常なのは、今の自分たちなのだ。

 わかっている。軍の決定に背き、同胞を攻撃することがどれほど愚かしいことか。それによって裏切り者とされた場合、自分達がどうなるか。
 ガルルに対して『お前が本当に同胞か確定していない』と言った。しかし、そんな詭弁も恐らくガルルにはお見通しだっただろう。
 今自分は、あろう事か敵種族を守るために戦い、侵略の障害であった者を救おうとしている。

 異常だ。
 あってはならないことだ。

 そんなことはわかっている。



 彼女は。
 守ってはいけない存在だった。
 側にいてはいけない存在だった。
 共に過ごしてはいけない存在だった。

 愛してはいけない存在だった。




 そんなことは分かっていた。
 そのはずだった。その上で、守ることを心に決めていたのに。

 今の自分では、守ることすら出来ない。










 朦朧とした頭で、先ほど夏美に投げた小さな機械を思い出す。

 夏美は、まだ大丈夫だ。
 ガルルがまだ彼女を狙わない限り、あれがあればもうしばらく夏美は戦える。

 彼女は強い。自力で戦えるだけの力があれば、きちんと身を守ることが出来るはずだ。


 けど。




 彼女をこの手で守ることは、もう自分には出来ないのか。










 響き渡る、巨大な水音。
 しかし、その音がギロロの耳に届くことは無かった。









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 結局一番この奇妙な関係の矛盾を自覚しているのはギロロだと。
 好きで、守ってしまうけど、でも軍人であるからには倒さなければならない。他の『お友達』関係だとあんまり目の当たりにしない矛盾なんですね。
 夏身が熱出した話も原作の台風の話も、ギロロは躊躇った挙句に結局夏美ちゃんを選んでくれていますから、ほとんど結論は出てるんだと思いますがね。



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