2 放火犯の正体は二宮金次郎らしいです。
最近校内でボヤが多い。
しかも噂によると、どうやら放火らしい。
「で、犯人誰だと思う?」
「ほんっとに唐突だなお前って。だいたい俺目撃したわけでもないのにわかる訳ないだろ。」
「なんだよ渋谷、君は放火犯が気にならないのかい?」
「いや、そりゃ気になるけど別にそれほどじゃないよ。」
「なんだよもうノリ悪いなぁ。僕なんか気になって気になって夜眠っても放火犯が夢に出てくるぐらいなんだよ。もはや気分は憧れの先輩を想う恋わずらい中の乙女さ。」
「気になりすぎだろそれ!!」
まあ、確かに村田以外の生徒も放火犯の事を気にしているらしい。先生方も見回りをしようかと検討してるみたいだし、生徒会でも最近「火の用心」のポスターを貼り出している。かくいう俺も校内に放火犯が潜んでいると思ったらおちおち授業をサボる事もできやしない。いや、サボるほどの度胸もないけどさ。
「で、僕が集めた目撃情報によると・・・・・・。」
「・・・・お前ってホントそういうことに手が早いよな。」
「どうやら犯人は主に放課後ギリギリの時間に犯行をおこなっているらしい。だから外部犯の線はちょっと低い。身長は低め、恐らく男性、そして背中に薪をしょっているらしい。」
「へえ・・・・・ってオイ!?軽く流しかけちゃったけどなんで薪!?んな二宮金次郎じゃないんだからさ!」
「・・・・・・・・・渋谷。」
「な、なんだよ村田。突然シリアスに。」
「・・・・実は、放火犯が二宮君かもしれないという噂もあるんだよ。」
WHAT?
「・・・・・・・・二宮って・・・・・あの、銅像だよな?」
「うん。」
「・・・・・・・・・・・・・・ゴメン、俺そういう怪談系なものは勘弁。」
「二宮くんったら・・・・勉強家の優等生だったはずなのになぜそんな罪を・・・・?」
「いやそんなフツーな感じで言わないで、怖いから。」
っつーわけで。
「今回も丸め込まれちゃうのかよ、俺・・・。」
段々自分が情けなくなってきた。
「しーっ!取り合えずここに『放火犯取り押さえ探偵団』を結成する。リーダーは僕で、渋谷は助手。」
「取り押さえるのに探偵はおかしいだろ!」
「あ、だったらグリ江は捕われの美女役がやりたいわーv」
「うーん、ヨザ。確かにサスペンス系ミステリーに人質はつきものだけど、さすがに放火犯は人質をとらないと思うよ。」
今回のメンバーは俺と村田と事務員のヨザックさん。ヴォルフラムは用事があるらしく今日は先に帰った。
「で!今まで被害にあっている場所の関係性から考えて、今度ボヤが出るところはここ、体育館裏で間違いないと私は見ているわけなのだよワトソン君。」
「お前がホームズ役かよ。ま、現場の関係性とか見抜いたのは流石だと思うけど。」
「いやいや坊ちゃん、騙されないで。この前健が『体育館が燃えちゃえばいいのに・・・・・・』って呟いていたのを俺聞いちゃってたから。」
「あっヨザ、それは期間限定!来週のスポーツテストの憂鬱を思っただけじゃないか!」
段々あやしくなってきたなオイ。
「ほ、ほらほら!誰か来た!」
「え?」
いかにもーな誤魔化しだと思ったが、確かに人の足音が聞こえ、俺たちはあわてて茂みに身を隠す。
ガサ、ガサ、ガサ・・・・・・・と足音が近付いてくる。
「・・・・これで花壇に水を与えに来た栽培委員だったりしたら俺ズッコケるからな」
「安心しな渋谷、その時は僕も一緒にズッコケてやるから。」
「しーっ!どうやらマジみたいっすよ・・・。」
確かにヨザックさんの言うとおり、段々と足音が近付き、やがて止まった。
よかった。これで通り過ぎたりしたらどうしようかとちょっと思ってた。
「くあー!遠くからじゃよく分からないー!」
「村田静かに!」
一度止まった足音は、まるで燃やす場所を物色するかのようにまたゆっくりと近付き始める。
少しずつ縮まる距離。
高まる緊張。
そして。
ガサァッ!
「捕まえたぞ放火犯二宮ーっ!」
ああっ!村田の大馬鹿!
飛び出すタイミングが早過ぎる上にまだ二宮君かもわからないのにっ!
と。
「・・・・・・・・・・・・・な・・・・・・。」
「「なにぃぃぃぃぃぃぃっ!?」」
村田の声の後に、俺とヨザックさんの声が重なった。
と、いうわけで解決編。
「・・・・・・・で?なぜこんな事を?・・・・・・フォンビーレフェルト卿。」
そう。
重々しく言う村田の前に静かに正座しているのは、今日は用事があるからと先に帰ったはずのクラスメイト、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムだったのだ。
見た瞬間はマジで「なーんだヴォルフが手伝いに来てくれただけかー。あっはっはー」なんてオチになるかとも思ったのだが、よく見たらきっちりマッチも油も持っていたため現行犯で即お縄となった。
「ヴォルフ・・・・なんでこんな事を・・・・・・・・ってか何燃やしてたんだよお前。」
「これっすかね?坊ちゃん。」
「ああっそれは!やめろ、ユーリには見せるな!」
「随分必死だねぇ・・・おお、これは。」
村田とヨザックが勝手にヴォルフの背負っていた籠をのぞく。薪だと思われていたのはこの籠だったらしい。籠の中に山ほど入っている白いものを1つ取り出すと、それは。
「手紙・・・・?」
「やめろユーリ、見るな!」
しかもこのきれいな封筒、このハートマークのシール、そして美しい筆跡・・・・どう考えてもこれは世に言う、あの、俺は貰った事ないけど・・・・。
「らぶれたぁ、だね。」
「ひらがなだと間抜けだなオイ。」
「わースゴ。これみんなラブレターっすか?ヴォルフラム君もなかなかやるねぇ。いやん、妬いちゃう!」
「えー!?お前保健の先生からまでラブレターもらってんじゃん!うっわうらやましい!」
「しかしそれを燃やそうとするとは感心しないね。君ほどモテモテの奴がこんな女性の心を踏みにじるようなこと、一体なぜ?」
「そーだよヴォルフ!俺なんか一回たりとも貰ったことねーのに!」
口々にオレたちが責めると、ヴォルフはしゅんとした。なれない正座のまま、言う。
「・・・・・ユーリに、知られたくなかったんだ・・・・・・・。」
「は?」
「だから・・・・・・・女にこれほど恋文を貰っている僕を見たら、お前は僕を尻軽な奴だと思うだろう。誤解を受けたくなかった。僕はユーリ一筋なんだ。でも断っても断っても手紙は届くし、教室のゴミ箱に捨ててもバレそうだし・・・・・・・。」
「それで・・・・・・・燃やしたのかい?」
村田の問いに、ヴォルフは静かに頷いた。
「母上が騒ぐだろうから家には持って帰れないし、どうにか学校内で適当に処分すればいいと思って・・・・・。まさかこんな大事になるとは思わなかったんだ。・・・・・・・・すまない。」
うなだれるヴォルフ。
どうやら今までも何度もこういう事をやっていて、そのうちの何回かでうっかり火の始末を忘れたらしい。確かに坊ちゃん育ちのヴォルフ、恐らく焚き火もしたことないだろう。火を扱う時は必ず水を張ったバケツ用意して大人の人と一緒に、なんてルールは教えられたことがなく、その為今回のような事件がおきてしまったのだ。
「なるほど・・・・。謎は全て解けたね。」
「まあ、なんつーか、アレだな。一応事件は解決だし、ヴォルフも反省してるし・・・・・・・・・・ややムカつくところはあるけど。」
「要するに今回の事件は。」
「ん?」
「君が原因だね、渋谷。」
「だからなんでそうなるんだよ!」
モテ男の憂鬱、完。
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うちの今まで通った学校には、二宮どころか校長先生の像もありませんでした。図書室にモナリザはあったけど外されちゃったし。ああいうのって学校の怪談の定番なんだよなー。
ちなみに今回出演したヨザックは、村田君と特別仲がいいらしく呼び捨てで付き合ってます。まかりまちがっても一介の高校生を「猊下」とは呼びません。ギュンギュンが「渋谷君」って言ったときを書いたのと同じくらい違和感あったけど。
あとヴォルフもただの高校生なので炎の魔術は使えません。なので放火(違)もマッチ持参です。
にも関わらず婚約者的言動がそのまんまだったりヨザが有利を「坊ちゃん」と呼んでたりするのは・・・・・・・・追求しないでプリーズ。
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