ハーレムはまず、両腕を大きく回した。はじめは勢いよく、次に何かを確かめるかのようにゆっくりと。
ここ数年、疑惑はあった。
それは予感とも言えないような小さな違和感だったが、日を追うごとに強まっていった。
それでも気にするほどのものでもないとなんとか自分に言い聞かせ、日々を過ごしていた。実際特に問題もなかった。そう、昨日までは。
回した両腕を降ろし、今度は右のみをゆっくりと頭上にあげてみる。
本当は、こんなことしたくないのだ。
恐れ続けていた事態が現実となったかどうか、確かめるのが怖い。
今朝目が覚めてすぐ、何かが違うと気付いた。
数年間ずっと感じ続けていたあの違和感が、今日に限って妙にくっきりとわかる。
まるで何かが己の身体を上から少しずつ蝕んでいくかのような、重い感触。
「・・・・・・・・・・っ!」
やがて。
ハーレムは、己の危惧が確信に変わったことを知る。
真上にあげようとした腕。その右腕に、鋭い痛みを感じて。
腕が、あがらない。
無理に上げようとすれば、まるで拒絶するかのように痛みが襲う。試してみると、左腕も同様だった。
今まで共にあったこの身体が、もはや自分の意志の通りには動いてくれない。
「馬鹿な・・・。」
腕を降ろし、ハーレムは呆然と呟く。
いつかこんな日がくるとはわかっていた。
けれど、そう簡単に受け入れることなど出来ない。
認めたくない。認められるわけがない。
例えそれが必ず来る運命だとしても。
昨日までは確かに自分だったものが、もう自分ではないなんて。
気配を感じ振り返ると、部屋の入り口に男が立っていた。
ハーレムよりもわずかに色素の薄い金髪、はるかに光る青い両目を持つ、もはや自分にとってただ一人の兄、マジック。
いつから見ていたのか、その男は運命に苦悩する弟を嘲笑うかのように口端を吊り上げ、やがて口を開いた。
「四十肩、か・・・・・・・。」
「どやかましいわこの50過ぎ馬鹿兄貴がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ずどごぉぉぉんっ!
「部屋の中でガンマ砲使うのはやめなさいっていつも言っているだろうが!ただでさえもう年なんだから!」
「うるせぇっ!てめえに言われる筋合いはねぇよこの親馬鹿ジジイ!老人らしく隠居してどっか山奥にでもこもってやがれっ!」
「お前こそいい加減特戦部隊なんて解散して老後の面倒見てくれる人でも探しなさい!サービスはなんだかんだ言ってもう用意してるぞ!?」
「ありゃ犬兼下僕じゃねーか!大体俺はまだ現役だ!引退なんかするかっつーの!」
「そーやって自分の年を自覚しないでいたから痛んでるんだろうがその肩!私のようにもっと前からマッサージやなにやらしていればもっと軽く済んだのに。ほら湿布。」
「嫌だ!ンな老人の象徴みたいなもん身体に貼って生活できるか!」
「意地を張るんじゃない、どうせ最近視力も落ちてきたんだろう。恥ずかしがらずに言いなさい、お兄ちゃんが遠近両用眼鏡買ってあげるから。」
「てめえこそそろそろ老人用オムツの予約でもしといたらどーだ!?」
「なんだと!?あまり兄を馬鹿にするもんじゃないぞ、ハーレム!」
「上等だ、やるかぁ!?」
ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
「はーい、これより先はただ今元総帥VS特戦部隊隊長の壮絶兄弟喧嘩が行われていて大変危険なのでー、団員は皆オラたちの指示に従って速やかに避難するようにー。」
「止めてこようなんて馬鹿な考えは持たないようにー。過去に己の実力をわきまえなかった団員が何人も若い命を散らしてるっちゃー。」
「総帥、被害状況はハーレム隊長の私室を中心に半径50メートルくらいじゃ。こんくらいなら修理業者はいつもの所で大丈夫じゃな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ・・・・・・・。」
「総帥、どないしはりました?なんか問題でも?」
「いや・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・俺、人って年食ったら温厚になるもんだとばかり思っていたよ。」
「・・・・・・シンタローはん。それ、『手の冷たい人は心が温かい』っちゅうのと同じくらい迷信どす。」
「・・・・・・そっちもなのか?」
「わての師匠、身の毛もよだつほどの末端冷え性どす。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど。」
特戦部隊隊長、ハーレム。
今年でめでたく48歳。
End
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あ、これハーレムさんの誕生日にあげればよかった。
えー、日記でも書きましたがこれはなんと本サイト初携帯にて制作された小話です。よってなんか文体に色々違和感が生じていますがどうか見逃してください。
青の一族の方はみんなそろって若々しいなあ。
車椅子に乗っていたマジック様だって、計算上楽に100歳越えてるはずなのに60代くらいにしか見えないもんなあ。
直前のシンタローだって30代後半にしか見えなかったけど本当は56歳のはずですから。
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